ポーク&パイナップルピザ

「この分だとヒューストンに着くのは夕方になりそうだな。…失敗した」
「え?何でですか?」
「朝と夕方は都市間のインターステートなんて使うもんじゃない。日本でいう通勤ラッシュだ」
「あー、なるほど」

 インターステートというのはいわば高速のようなもので、車社会のアメリカでは出勤や退勤の車が朝夕一気に押し寄せる。今はサマーバケーションの時期ではあるが。

「ビューモントででも時間をつぶすか」
「迂回すればいいじゃないですか」
「…レイ」
「それかレストランにでも入りましょうよ。いい加減軽食にも飽きたでしょう、ナマエも」
「いや…むしろ私は行きより豪華なご飯でラッキーでしたけど」
「…はい?そういえば、道中の食事はどうしてたんです?」
「んー…買い込んだカロリーバーとか、途中で買ったサラミとかナッツとかで済ませてました。何せ学生の身なもので」
「…………もしかして痩せました?」
「いいダイエットにはなりましたね」
「………細いと思ったんですよアメリカ留学に来た割には!食事が合わないってわけでもなさそうなのに何でかとは思ってたけど!全くもう、僕たちといる間はきちんと食べてもらいますから」
「はは…レイ、お兄ちゃんみたい」
「……!………あなたのお兄さんだってそんなんじゃ心配するに決まってますよ」

 少し狼狽えたレイの台詞に、ナマエも少し俯いた。

「あの人にそんな筋合いない。こんなに人に心配させておいて」

 ブロロ、と、車のエンジン音が静まった車内に響く。

「……なーんてね。お兄ちゃんなら死ななきゃとりあえず問題ない!って笑うに決まってますよ」

 気まずい沈黙もほんの一瞬で、すぐにぱっと明るい表情で顔を上げたナマエに、レイもシュウも何も言えなかった。

「………とりあえず、ヒューストンに向かうぞ。途中にレストランがあれば入る」
「………ええ」

 心なしか重くなってしまった空気に、ナマエは内心でしまった、と思っていた。甘えすぎた。まるで彼らが兄のことを知っているみたいに言うから。…あまりにも空気が似ていたから。





「レストランっていうか…ピザハウスじゃないですか」
「サラダは置いてあるみたいだから栄養上は問題ないだろう」
「どうせポテトサラダとかコーンサラダでしょう。あれをサラダだと思ってるなら大間違いですよ、そもそも穀物だし」
「あ、でも私ピザ食べたいです。一人だとなかなかピザって食べられないじゃないですか。アメリカに来てからそんなに食べたことないんですよ」

 それは言外にピザをシェアできるような友人が少ないと言っているようにも聞こえる。シュウとレイは顔を見合わせ、ピザハウスに入ることを決めた。

「ミディアム二枚でいいか?」
「むしろ一枚で十分だと思いますが」
「ステーキもあるな。スモール二枚とステーキにするか」
「いいですけど責任もって食べてくださいよ。ナマエ、何味にします?」
「んー、ポーク&パイナップルのバーベキューソースかな」
「もう一枚は?」
「任せます」
「じゃあ…」
「チリチーズピザ、ホッテストで頼む。それとステーキ、ポーク&パイナップルピザバーベキューソース、シーザーサラダも一つずつ」
「あっちょっとシュウ、何勝手に頼んでんです!あなたステーキ頼むんだから僕に選ばせてくださいよ」
「好みだと思ったが違ったか」
「……それでもです!」

 シュウが頼んだのは確かにレイが目を付けていたやつだった。それでも横から勝手に注文されるとムカつくもので。レイはきっとシュウを睨み付けた。そんな二人にナマエは笑う。すっかり先ほどの気まずさは払拭されていた。





「やはり混んでいそうだな」
「ヒューストン通り過ぎちゃえばいいんじゃないですか?」
「…だが、兄との約束を叶える旅をしているんだろう?」
「え?ああ、宇宙に行きたいってやつ。覚えてたんですか、恥ずかしい。…いいですよ、それはちゃんと兄と再会してから行きますから。NASAの宇宙ステーションにでもなんでもね」
「…そうか」

 その言葉に、シュウは"こちらヒューストン"の看板を通過した。とはいえ、実際混むのはここからだ。ヒューストンとサンアントニオの間の道は特に酷い。100万都市間は伊達じゃない。

「こっからはずっと単調なドライブだな。400マイルはひたすら砂漠だ」
「へぇー。地平線の限り緑に見えますけど」
「あれも砂漠だぞ、分類上は。この辺りはぎりぎり草原だろうが」
「へぇ、そうなんだ」

 二人との旅はなかなか楽しい。シュウもレイも博識で、窓の外を通り過ぎていくいろいろなものや景色の説明をしてくれるし、おいしいごはんも食べさせてくれる。

「なんか…」
「ん?」
「あ、いえ、何でもないです」

 さっき兄の話題を出して空気を悪くしてしまったばかりだったことを思い出し、ナマエは言葉をひっこめた。
 なんか一気に二人兄ができたみたい。そんなことを言われても二人とも困るだけだろうから。



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