アトランタ

「………あ」

 日付が変わってもシュウはしばらく淡々と運転を続けていたが、ある地点に来たところでそんな声を漏らした。助手席でうとうとしていたナマエはすぐに目を開けた。

「…どうしたんですか?」
「いや、アトランタを過ぎてしまったと思ってな。…しかしレイは…寝ているようだしいいか。どうする、コーラでも買いに戻るか?今なら少し行けばまだ店くらいある。開いてるかは分からんが」

 シュウは昼よりどことなく饒舌に見えた。夜行性なのだろうか。隈もすっかり定着しているようだし、なんて眠たい頭で考える。

「………何でコーラ?」
「アトランタといえばコーラだろう?」
「ふぅん…じゃあ折角なので」

 ナマエがそう言うと、シュウは助手席に手をついて少しバックし、華麗にターンして来た道を戻り始めた。わざわざ戻ってくれるくらいならそのまま行けばよかったな、とも思ったが、眠たいナマエはいちいち訂正するのも面倒で、結局シュウに全てを任せた。





「んー………アトランタですか?」
「ああ。一応な」

 後部座席で伸びをして体を起こしたレイは、不思議そうにあたりを見回した。あたりは真っ暗で何も見えない。都市はとっくに通り過ぎているから当然なのだが。

「………ナチトレイス?何でそんな旧道に…」
「流石に単調な運転で、いろいろ間違えた。」
「はぁ?…ていうかこんな深夜に何食ってるんですか、あなたたち」

 シュウと並んでもぐもぐと口を動かしていたナマエはちょっと首を傾げた。シュウに手渡されたのでとりあえず食べているが、一体自分が何を食べているのか分からない。甘辛く味付けをした豆?と、パンのようなもちもちした生地の何か。

「ただの軽食だ。君の分も一応買ってあるが」
「…ピタパンですか?味は?」
「チリビーンズかハニーマスタードチキンだな」
「私のがたぶんチリビーンズですね」
「こういうのは買った時に起こしてくださいよ。冷めきってるじゃないですか」
「君が起きないのが悪い。それにこれは夕方に買っておいたやつだ。こんなところにこんな時間まで空いている店はない」

 なんか今、小さく「アカイィ」と聞こえたのだが、気のせいだろうか。ナマエはもぐもぐと口を動かしたまま、また首を傾げた。

「で、このまま制限速度通りナチトレイスをちんたら450マイル走ってもいいんだが…予報によると朝方まで天気が悪い」
「時速35マイルなら別にいいんじゃないですか?天気が悪いって、」
「ストームだ」
「……車中泊かモーテルですね。ナマエ、体は痛くなってませんか?」
「あ、私は大丈夫です。むしろ野宿に比べたら雨風しのげて有難いくらいで」
「はは、本当に逞しいですね、君は」

 しかし時刻は夜半過ぎ。結局その日も車中泊となった。ナマエとしては金を使わなくて済むのでありがたいのだが、ここへ来る道中、一度も自分の財布を出していないことには流石にそろそろ危機感を抱いていた。このまま最後まで一度も出せないのでは…。



戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -