理不尽な苛立ち おまけ

「本当にごめんなさい、シート」

「いえ、いいんですよ」

 ナマエは内心で溜め息を吐きたい気分でいっぱいだった。というかむしろ泣きたい気分だった。いくらなんでも取り乱し過ぎた。沖矢のみならず安室や梓にまで気遣わせてしまうなど、中身がいい年をした大人である身としては失敗である。とりあえずの処置は終わったが、後部座席の血の跡だけは完全に落とすことはできなかった。

(車好きの人の愛車を汚すなんて…)

 本当に申し訳ない。

 しゅんとしているナマエを見て、沖矢も内心で動揺していた。妹はいたが、妹が思春期を迎える頃自分は家にいなかった。

(………あまり蒸し返しても嫌なものだろうか?)

 それとも赤飯でも炊くべきなんだろうか。
 車内はずっと気まずい沈黙に満ちていた。




 その日の夕飯は赤飯で、ナマエは思わず絶句した。

(この人にはデリカシーというものが…いや、この人なりの気遣いかもしれないし…うん)

 それに今更本当の思春期というわけでもないのだから男性相手に女性特有の事情を知られてヒステリックになるようなこともない。
 ナマエは一切何も触れず、食事を終えた。ちなみに味は分からないものの、赤飯はもち米を加えて本格的に炊いたらしく、もちもちとした触感は非常にナマエ好みであった。



 その後、何も言わなくても棚に置かれていた生理用品と、トイレに設置されていた小さな蓋つきのゴミ箱に、ナマエはまた絶句したのだが。それはまた別の話である。




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