大人は子どもを守るもの

「あれ、今日は早いですねナマエさん………それ、」

「ああ、このチョーカー。頂いたんです。素敵でしょう」

 早朝のポアロ。掃除中の安室は、通りがかったナマエの首元に注目した。チョーカーは勿論のこと、その下から見え隠れする赤い痕に。

「………素敵なチョーカーですが、少々悪趣味にも思えますね」

「そうですか?私は割と気に入ってるけどなぁ」

 どう見ても絞められた痕と、それから鬱血痕による赤い輪。チョーカーがなければ痛々しい赤い首輪が露わになっていたことだろう。

「それより安室さん、今日はお別れを言いに来たんです。しばらくこの町からいなくなるので」

「あぁ……」

 以前、未成年であることを知った時に、この町から出ていくという宣言は既に受けている。安室は目線を落としたが、ナマエはちらりと苦笑を見せた。

「そうじゃないですよ。あれはただの八つ当たりだもの。新しくやることができてしまって。でも安室さんと仲直りできないのも寂しいから、プレゼントでもと思ってね」

 そう言ってナマエは小さな包みを安室に押し付け、何を言わせる間もなく立ち去って行った。
 小さな包みの中には、シンプルな携帯電話。機種やメーカーの刻印は見当たらないので恐らく個人的に用意したものなのだろう。近日ベルモットに聞かされた話を思い出し、安室は全てを悟った。



「どういうことだ」

「早かったな。まさか本当に駆けつけてくるとは思わなかった。彼女の読み通りか」

「どういうことだと聞いているんだ、赤井っ!」

 シンプルな携帯電話の中に入っていたのはたった二つの連絡先だった。ひとつは今目の前にいるこの男のもの――――もうひとつは恐らく、

「大方彼女を組織へ差し向けるつもりなのでしょうが―――何を考えているんです?ジンと彼女がどういう関係だったか忘れたわけではないでしょう」

「おや、随分彼女へ優しくなったというのもどうやら本当のようだ」

――――彼女は未成年です。組織にいたころの彼女の個人情報はフェイクだったんです」

「その情報は既に得ている」

 安室はぐっと拳を握りしめた。彼女の首元についていた痛々しい赤い痕を思い出す。

「知っていながら未成年をあの組織に向かわせるのか!」

「……君がベルツリー急行の中で捕えようとした宮野志保も未成年だぞ?それに君だってあのボウヤに散々助けられているだろう。今更あの組織をつぶすのに年齢なんて小さなことを気にするつもりか」

「ハッ、そうですか、そうですね――――あなたはそういう男だ」

「君だって似たようなものだと思っていたのだがな」

 宮野志保を捉えた後は当然保護するつもりだった。組織への手土産など目の前のこの男だけで十分だ。

「………分かり切っていたことですが、やはりあなたとは相容れないようだ」

「何、ベルモットの傍には君もいる。そう心配はしていない」

「……話が通じないようですから、もう帰ります。今後二度とこのような勝手な真似はしないでいただきたい」

 殺気すら帯びた安室の眼光を受けて、赤井はひょいと首を傾けた。



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