僕にはもう、耐えられなかったんだ。

君を幸せにしたいと思っているのに傷つける事でしか彼女の愛を確かめる事ができない。

何度も彼女を傷つけてるのに、その度に彼女を僕を繋ぎとめようとしてくれる。

君を幸せにすると言えないそんな弱い僕は、これ以上彼女を苦しめてしまう前にさよならを選ぶしかなかった。

これが、僕に残された、君に対するわずかな優しさなんだよ。




「好きだなんて、嘘に決まってるでしょ?」


この言葉で君が傷つくことは容易に想像できた。

そしてその言葉を聞いた君が、僕に言うであろう言葉も容易に想像できた。


「…じゃあどうして好きだなんて言ったんですか。そんなこと思ってなかったなら言わなければよかったのに」

「そうだよね。期待させちゃったよね、ごめんね?でももう飽きちゃった。君みたいなお子様と付き合うのはめんどくさくなっちゃったよ。」

「…そう、ですか。そうですよね。わたしは郁からすれば子供で、身の程知らずだったんですよね。」


でも、君は笑うから。

傷ついても、悲しくても、苦しくても、いつもそれを受け止めて必ず笑うから。僕は、そんな彼女を見て強いと思ってたんだ。

だから僕がどんな事を言ったってきっとまた笑って前を見て歩いていく。そう思ってた。


「なら…どうして嘘を突き通してくれなかったんですか。」

「え?」

「郁は優しいから、わたしをこれ以上傷つけるのはダメだって思ってくれたんですよね。だからわざと嫌われようとしてるんじゃないんですか?」

「月子、君は」

「その度に、郁だって傷ついてるんでしょう?」


彼女を強いだなんて。どうしてそんなこと思ったんだろう。

華奢な肩は小刻みに震えていて、綺麗な瞳から零れそうな涙を、唇を噛みしめて必死に我慢してる。

無理に作られたその笑顔は、彼女が女の子であり、繊細でもある証で。


「…それが一番苦しいんです」

「…月子」

「わたしを傷つけることで郁を傷つけることが一番苦しい」


思わず彼女を抱きしめそうになって、出しかけた手を引っ込めた。

だめだ、ここで彼女に触れると、何もかも終わりだ。きっと僕はこのまま彼女を腕を掴んで離さなくなってしまう。

もっともっと傷つけて、彼女をボロボロにしてしまう。

そうなる前にさよならをしないと。


「…ふふ、笑わせるね」

「郁、」

「僕のことは気にしなくていいよ。これっぽっちも傷ついてないから。すぐに君のことも忘れてしまうよ」


僕は君の前から消えるから、だからそれまでは、その涙を零さないでいて。

君は僕の記憶になって、僕は君の記憶になる。

それでいいんだ。それで。