なんとなく心のどこかで、もうすぐ終わりの時がくるんじゃないかって思ってたんだ。理由も根拠もなくて、本当になんとなくだけれど。

きっとわたしの心がすこしでも傷つかないようにって、誰かが知らせてくれたのかな。きちんと覚悟しておきなさいよって。

始まりがあれば、必ず、終わりもあるんだよって。




「…もう、ここでいいよ、梓くん」


見慣れた帰り道。

春は満開の桜に感動して、夏は照りつける太陽と暑さに嘆いて、秋は綺麗に色づく紅葉にちょっぴり切なくなって、冬は寒いねって寄り添いながら歩いた。

そんないつもの帰り道で木々が風に揺れてザワザワと音を立てる。

わたしの手を引いて歩いていた背中に声をかけると、彼はゆっくりと身体をこっちに傾けてくれた。


「ありがとう梓くん。こんなわたしと付き合ってくれて。」

「…先輩」

「すごく楽しかった。もう会えなくても言葉を交わすことがなくなっても、わたしの初恋は梓くんだよ。それだけはいつまで経っても変わらない。」


腕を引かれ、ゆっくりと梓くんの身体に包まれた。ふんわりと香る甘い匂いと変わらない温もりに目頭が熱くなったけれど、心を落ち着かせる。

大丈夫。わたしは、大丈夫。


「…先輩、ごめんなさい。」

「わたしなら大丈夫だよ。出会いがあれば別れもあるってわかってたことだから。梓くんがそんな顔しなくてもいいんだよ。誰も悪くないんだよ。」

「でも俺、先輩のこと幸せにするって、約束したのに」

「ううん。わたしはもうたくさんの幸せをもらったよ。だから、今度は梓くんが夢に向かって頑張って、幸せを掴む番なんだよ。」

そう言うと、梓くんはもっと力を込めてわたしを抱きしめてくれた。細いけど、力強くて男らしい。

わたしも梓くんの背中に腕を回して、力一杯彼を抱きしめる。

彼と出会わなければこんなに辛い思いもしなかった。なんて言いたくない。

出会えたことが偶然なら、別れも偶然なんだよ。


「目、瞑って下さい」

「ん」


目を閉じて、次に開いた時には。

もうわたしと彼は恋人同士でも、友達同士でも、先輩後輩でもない。


出会う前のふたりに戻るんだ。