ずっとずっと誰かに甘えたかった、なんて言ったらお前はどうするのかな。男なのに情けないって怒るのかな?それとも甘えていいよって笑うのかな。


「ねぇ、錫也」

「ん?」

「ふふ、呼んでみただけ」

「なんだそれ」


隣に座って俺の肩に頭を預けてきた彼女の髪の毛を撫でる。柔らかく絹糸のような綺麗な髪の毛を指に絡めると、くすぐったいのか愛しい人はいつものように目を細めて笑うんだ。

かわいいなあ、なんてコイツと一緒にいるうちにもう何千回思ったことだろう。

いつまで経っても新鮮なんだ。

こうして二人で過ごす何気ない時間好きだし、大事な人と時間を共用して、同じ空気に触れて、それだけで幸せな気分でいっぱいになる。


「………月子、」

「ん?」

「…呼んだだけ」

「真似しないでよー、ふふ」


何も言わずに月子の身体を捻るようにして引っ張る。後ろから腕を回して小さな身体をぎゅっと抱きしめた。

首筋に顔を埋めるとふわりと香るシャンプーの香りに眩暈がしそうだった。女の子特有の甘い香り。

それに、いつもなら恥ずかしがって抵抗するのに今日は俺の腕をぎこちなく握ってくれた。これ以上ないくらいに、顔を真っ赤にして。


(そういう可愛い事をするなよ…)


俺も素直になれたらいいのに。

自分の気持ちを隠さずにぶつけることができるならどんなに楽なんだろう。素直に甘えることができたなら。

伝え方が分からない。そんなことを思ってるうちにもう自分だけじゃ抑えきれないくらい、この気持ちは膨らんでいる。今にも割れてしまいそうだ。


だから、零れ落ちる前に。





「…………好きだよ、」

「っ錫、」

「好きだよ、すき」


過去も現在も未来も。全部全部俺のものにしたいし、お前のものにして欲しい。

そう言いたいのに嫌われるのが怖くて口を開いても伝えることができたのは二文字だけ。俺の気持ちを形容してくれるのは"好き"だけだった。



「わたしも、好きだよ、錫也」

「…っ」

「大好き。錫也から離れることは絶対にないから、だから錫也はもっと甘えていいんだからね?」


幼馴染みとしても友人としても恋人としても一つ残らずこの想いを受け止めて欲しいんだ。俺自身を受け止めて欲しい。

そんな気持ちはとっくに伝わってた。


俺がコイツの些細な変化ですら何でも見抜いてしまうように、俺の気持ちも見抜かれてたんだ。

すこしだけ顔を傾けて俺を見て、もう我慢しなくていいからね、と優しくほほ笑んでくれた。


「…っ…あぁ、」


やっぱり敵わないな。

俺は一生、この愛を捧げ続けるよ。