冷たい空気を吸って、吐いて。

それだけのことなのに、目の前の世界が変わったように見えたのはわたしだけなのかな。




「…綺麗、ですね」


先に言葉を零したのは隣に立っている颯斗くんだった。

零したというよりは思わず零れ落ちてしまったという表現が似合うその言葉に、わたしはゆっくりと頷いた。

そしてまた、空を見上げる。

空に無数に広がる星に、しんしんと降り始めた白い結晶。

絶景と言ってもいいような光景に、胸の奥からこみ上げてくる熱い感情が今にも溢れだしてしまいそうだ。


「遅くまで残った甲斐があったね、ふふ」

「そうですね…すごく癒されていくのがわかります。自然ってこんなに素晴らしいものなんだと改めて実感しました。」


季節が変わっていくにつれて、生徒会は引き継ぎ作業に追われていつも以上に忙しかった。

気付けば外が真っ暗になるような時間で。

いつもの仕事も含めてすべてをこなすのはすごく困難で、身体も心もクタクタになるほどに動いた。副会長の颯斗くんは書記のわたしよりもっともっと疲れてるはずだ。


「なんだか寂しい、ね」

「え…?」


颯斗くんがふとこっちを見て、不思議そうな表情を浮かべた。

愛しい人とこうして隣に並んで時間を共にすることってわたしにとってこれ以上ないくらいの幸せだ。

だけど、変わらないで欲しいと願っても変わらないものなんて絶対になくて。朽ちていくものもあれば、輝いていくものもある。

自分がどうなるか、颯斗くんがどうなるか、これからもずっと一緒にいたいけど、未来なんて見えないし。


「変わらないものってないんだなーって思ったら、すこし寂しくなっちゃった」


口から洩れる白い息が冷たい空気に混ざって空に消えていく。それを目で追おうとした時に、背中に温もりを感じた。

細くて長い腕に包み込まれて、ぎゅうっと抱きしめられる。苦しいくらいに強く。

わたしより華奢なんじゃないかと思ってしまうこともあるけれど、力の強さにやっぱり男の子なんだ、と実感する。


「…確かに変わらないものってありませんね。僕も貴女もこの先どうなるかなんてわかりませんし」

「うん」

「…僕は貴女が好きです。けれど、今の感情のまま変化しないことなんてないと思うんです。」

「…うん」

「僕は貴女と一緒の時間を過ごせば過ごすほど、貴方をもっと好きになってしまいます」


わたしを抱きしめる冷えた手を握りしめると、吐息まじりの静かな笑い声が聞こえた。

そして颯斗くんは耳元で小さく囁く。



「変化があるからこそ、幸せになれるんですよ」と。



その言葉を聞いた瞬間、見上げた遠い空で一筋の光が見えた気がした。

それは一瞬で、儚くて、けれど言葉にできないような強さを放っていた。



「わたしも強くなれたらいいな、」

「貴女はもう強いですよ。僕なんかよりも、ずっと」


世界が廻るから愛しい人と出会えて、恋に落ちて。

この先どうなるかわからなくても、道があればそこを進めばいいだけなんだ。



「…好きだよ、颯斗くん」

「ふふ、ありがとうございます」



ひたすら。二人で一緒に、ね。


















(眩暈、泳いで、遠い空)

ど う し て こ う な っ た 。

気温が下がる時に見れるあの白い息が好きなので、それを使いたかっただけなんです。こんなすごくポエム的な感じになる予定ではなかったんです。

冬ですね。マフラー男子大好きです。