それでも手放したくない、なんて。 「…っ郁!」 「なに?」 見慣れた天井と、背中が沈む感覚、シーツに縫いとめられた腕。 力を込めてその拘束から逃れようとするけれど、それが無駄なこともわかっていた。わたしの抵抗なんて敵うはずもないことも。 わたしがいくら声を張り上げようと、泣き叫ぼうと、飄々としてる態度は1ミリも変わらない。 ただ向けられるのは何の感情もない冷え切った視線だけ。 「…さっき女の人の車で帰って来ましたよね。どこに行ってたんですか?」 「…どこでもいいでしょ別に」 「良くないから聞いてるんです。言えないのは、もしかしてさっきの人と二人だったからですか」 「…黙って」 「ちょっと、んぅ…っ!」 いつもいつもこの調子で、わたしの話なんて何も聞いてくれない。 どうしてこうなったのかなんてもう考えてもわからないし、今は考えることすら怖くなってしまった。 わたしの身体にまで染みこんでしまうんじゃないかと思うくらいのお酒と香水の香り。これが他の人の匂いだと思うだけで吐き気がしてしまう。 「…んっ、郁は!」 「…っ」 「いくは、わたしのことなんて…っ」 好きだとか愛してるだとか。 そんな言葉何度囁いたって、彼の耳には届かない。 本当はわたしが疑ってることも、信じてないことも、不安な事も、全部全部わかってるはずなのに。 「"愛してるよ、きみしかいないよ"…そう言って欲しいんでしょ?」 「!ちがっ…んぅ…っは…」 「っ…すぐに顔に出るよね君は。僕のことなんかこれっぽっちも信じてなんかないくせにその一言で満足になるの?」 「っ」 思わず言葉を詰まらせてしまった瞬間に、酸素ごと奪われてしまった。 唇も身体も熱くなるのに、心は冷えていくばかりで。 「……君は何も考えないで」 馬鹿だ、と思った。 今は無理でも、ずっとずっとわたしが愛を与えていれば彼に伝わるんじゃないか、届くんじゃないか、なんて自惚れてたんだ。 わたしがやってきたことは、ただ寂しさを埋めるだけ。それだけだった。 「ずっと傍にいて、僕の、傍に」 頬を伝う涙は、まるで粉雪のように儚く消えていく。 わたしにはもう彼の心を迎えに行く気力も体力もない。愛という嘘を吐くことに疲れてしまった。 彼の心は此所にはないのに、届くはずなんかなかったんだ。 (流し込むように囁けば) …なんてコメントしたらいいのかもわからないくらいにgdgdですね。 びっくりするくらいに冷たい態度の郁が書きたかっただけなんです。なんだかもうすいません。 最後のセリフはCDから少しだけ抜粋しました。ほんのちょっとだけ。分かる人には分かりますかね、どうだろう´ω` 最初は裏にする予定だったんですけどなんとなく精神的にキツい感じが良かったのでこんなのになりました。 |