いつも通り学校へ行って、いつも通り部活に出て、いつも通り寮へ戻る。いつも通りにやるべきことはやった。後は疲れた体を休めるために早く寝るだけだ。

いつも通り、いつもどおり。

そう思ってたのに。


ドアをノックされ、ふと壁にかかった時計を見る。

日付が変わるまであと少し。こんな時間に誰かが訪ねてくるなんてめずらしい。

不思議に思いながらもドアをゆっくり開けると、そこにはいる筈のない恋人の姿があった。


「…っなんで、お前ここにいるんだ…」

「ふふ、びっくりした?」


息が止まったかと思った。疲れ過ぎで幻覚を見てるんじゃないかと思うくらい、ここに彼女がいることはあまりに不自然で。

ここは蠍座寮で、言わずもがな男子寮だ。

女子が入るには入室許可をもらわなければいけないし、しかしこんな時間にそれが貰えるわけもなく。どうしようか、思考がまとまらない。


「梓くんに言ったらね、なんかすんなりと入れてくれたの。平気だったのかな?ふふふ」

「平気なわけないだろ!だいたいなんでお前こんな時間にこんなとこウロウロして…誰かに見つかったらどうする!」


少し声を荒げた瞬間、廊下の奥から話し声が聞こえて彼女の小さな肩が揺れる。

彼女の不安そうな顔を見て咄嗟にその細い腕を掴み、勢いよく自分の方へ引き寄せた。勢い良く閉まったドアの音が部屋に響く。


「っ」

「悪い、少しだけ静かにしてくれ」


そう言って彼女をぎゅっと抱きしめて身を潜める。話し声が通り過ぎて消えていくのを待った。

頬に当たった髪の毛からふわりと石鹸の香りがした。こんな時間だから風呂に入った後だとしてもおかしくはない……が。


「もう話し声…聞こえないみたいだよ?」

「…こんな薄着で男子寮に来るなんてどういうことかわかってるのか?来る途中で誰かに見つかったらどうするつもりだったんだ。何かされてからじゃ遅いんだぞ!」

「う…ごめんなさい」

「俺に用事があるのなら俺がお前のところに行くといつも言ってるじゃないか。こんな時間に外をふらふらして…風邪でも引いたら…」


本当にコイツの行動は心臓が悪くなることばかりだ。

そんな所ももちろん全部好き、ではあるが、俺以外にもそんなことをしていたら…と思うとなんとも居た堪れない気分になる。


「だいたい、お前はいつも…」

「あ!もう12時過ぎちゃった!?」

「は?人の話を最後まで…」


声を遮られて出来たのは、予想もしていなかった言葉。


「お誕生日おめでとう宮地君!」


それが鼓膜を通じて脳内に到達する。思考がうまく回転しなくて思わず目を見開いて驚いてしまった。

頬に触れる柔らかい感触。そして頑張って俺の身体を抱きしめようとしている細い腕。赤く染まっている耳。


「お前、いま、何を…」

「…一番にお祝いしたかったの!だから今日は無茶してでも、宮地君に逢いたくて、」


…どうして。どうしてこんなに。

友達でも恋人になっても、昔もこの先も、コイツのことを大事にしたいと思う気持ちには変わりはない。

けれどこうして急に感情が乱されるとどうしようもない。俺の限界なんてすぐそこにまで来てるんだ。

その気持ちをなんとかして隠そうと理性を働かせる。彼女の身体をきついくらいに抱きしめると、彼女は苦しいのかささやかな抵抗をして腕から抜けだそうとした。


「み、やじくん…!もう話し声…聞こえないみたいだよ?」

「だめだ、離さない」


今、この部屋に恋人と二人きりで、こんな時間で。

そんなに可愛い事を言われたとなれば話は別だ。


「俺だって男なんだぞ…わかってるのか?」

「?うん」

「誕生日を祝ってくれたことには感謝する。でも頼むからこんなことはもうしないでくれ」

「ごめん、ね?でも一言お祝いが言いたくて。学校終わったら一緒にケーキ食べに行こ?わたしに宮地君の誕生日を…ください」


彼女の体温がゆっくりと身体に染みて、俺はその温度と香りに引き寄せられるかのように唇を重ねた。

どちらからともなく触れては離れ。触れるだけのキスにしておかないと。あと一回だけにしておかないと。

あと一回、あと、


そう思ってはいるのに。


「ふっ…んぅ…みやじく…んっ」


頭を掻き抱いて深く深く口付ける。絡まりあう舌が妙な水音を作りだして、思わず鼓動が高まった。

抵抗していた彼女の腕も、力が抜けたのかだらしなく俺の服を掴んでいるだけだ。


一度だけじゃ足りない。

もっともっとコイツが欲しい。


「ん…はぁ…っ」

「悪い、どうしたらいいのかわからないんだ。お前を大事にしたいのに、俺はお前のことをこんなにも必要としてるんだ」

「宮地く…」

「情けないな、本当に」


酸素も声も何もかもを奪ってしまいたくなる。なにもかも、俺のものにしてしまえたならどんなに幸せなんだろうか。


「ふふふ、嬉しいな」

「む、何がだ?」

「宮地君がわたしを必要としてくれてることが」


彼女に逢うことが生まれてきた理由になってもいいんだ。


「わたしの全部をあげるよ?」

「お前、」

「……っだから、」


なんでもくれてやる。

それが愛する人の望みなら。






















(アイ・ウィル・ラグ・ユー)

な ん だ こ れ 。

宮地くんの誕生日祝いのつもりで書いたのに…どうゆうことやわたしの思考回路。いろんな人が混ざってる気がしてならない。

公式も落ち付いたみたいで良かったです。