貴方と一緒の朝を迎えるのは何度目なんだろう。 瞼をゆっくりと開けると真っ先に視界に入って来る愛しい人の寝顔。 いつもは意地悪な貴方の無防備な寝顔を見れるのはわたしだけの特権で、それを実感すると、胸がすごく熱くなる。 幸せを感じる、瞬間。 「…いま何時だろう、」 枕元に置いていた携帯で時間を確認すると、まだ夜が明けたばかりで、眠りについてから2時間も経ってなかった。 今日も朝から大学の授業があるから、もう少ししたら用意をしないといけない。それに郁も学校があるだろうから起こしてあげないと。 そうわかってはいるものの、幸せの後でやってくるこの寂しさにはいつになっても慣れない。 彼を起こさないように、静かにベッドを出ようとすると、寝てるにも関わらずわたしの腰に絡みつく長い腕。 「んー…」 「ごめん郁、起こしちゃった?」 「んーん…っもう朝…?」 低血圧な郁は人一倍寝起きが悪くて、起こすのにものすごく時間がかかる。 起きて意識がはっきりするまでにもすごく時間がかかったり、子供みたいに駄々をこねたりする。 朝から大変な思いをすることもよくあるけど、そんなところもわたししか見ることができないから嬉しいだなんて、ちょっと変なのかな。 「郁も学校行くんだよね?」 「んー…?うん」 「郁まだ寝てていいよ。わたし何か飲み物入れて来るね、紅茶でいい?」 「………いらない」 そう言ってまた眠りにつこうとする郁の髪の毛を撫でる。 こうやって愛しい人の温もりに触れていられる時間はずっとずっと続けばいいと思うのに、どうしてこんなに時間が経つのは早いんだろう。 一緒にいる時間が大切だと思える分、すごく儚いんだ。 郁を起こさないようにそーっと音を立てないようにベッドから降りようとする、と。 「!わっ」 「いらないって言ってるでしょ。どこ行くの」 腰に巻きついてた腕がわたしの背中に回って、そのままぐいっと引き寄せられる。 急なことにバランスが崩れて郁の上に覆いかぶさるような体制で倒れ込んでしまう。 「あ、の…」 「なに?」 「こ…紅茶を入れたいので離して…郁ももう起きないと…」 「んー……君からキスしてくれたら考えてもいいけど」 わたしの耳元で囁くように呟いた言葉に思わず顔に熱が集まって来る。 起きあがろうとしたけど郁にがっちり身体を抱きしめられてるせいで動けない。 「…」 「いつも僕からキスしてるんだから、たまには君からも、ね?」 「っ…意地悪」 …郁は、恋人同士になってからすごくすごく優しくしてくれるけどこういう意地悪なところはまだ出会った頃のままだ。 わたしが恥ずかしがってるのが楽しいらしくて、いつもいつも、わたしを試すような言い方ばかり。 わたしばかりが動揺して恥ずかしくて。 わたしだってもっともっと郁の色んな顔が見たい、のに。 「さ、どうするの?僕はどっちでもいいんだよ?」 「…」 「このまま僕と一緒に寝るか、君がキスし―…」 郁の言葉が途切れたのは、わたしのせい。 ぶつかるようにして重なった唇から郁の温度が流れ込んでくる。 わたしの想いも伝わるかな、伝わって欲しいな。 ぎこちなく唇を離そうとした瞬間、彼の手が添えられるようにわたしの後頭部に回る。鼻先が触れる距離で彼と目が合うと、彼の顔は少しだけ赤くなっていた。 「…郁、顔赤い」 「しょうがないでしょ。君からキスしてくるなんて思わなかったんだから」 「自分からしてって言ったのに?」 「…うるさいよ」 すこし郁が可愛く見えてしまって笑うと、離れかけた唇は彼にまた奪われてしまう。 今度は触れるだけの、ぎこちないキスなんかじゃない。 「んっ…ふ…」 目をぎゅっと閉じてるのに、郁が微笑んでるのがわかった。結局はいつも郁のペースになってしまうんだ。 悔しいけど、自分の愛しい人が自分の事を求めてくれるって感じてしまうと、もう何も拒めないんだ。 「っもっと」 身体が反転したのがわかって、背中から深く落ちていく感触と、止まる事なく上昇する体温。 何度も啄むようにキスをされて、少しだけ目を開くと郁の綺麗な顔と、白い天井。 この場所が一番好きなんだ。 愛しい人の肩越しに世界を見れる、 この場所。 「…好きだよ、月子」 「っ…うん」 小さい頃は誰かを好きになるなんて考えられなかった。だからこそ、奇跡に近いんじゃないかって思うの。 何億もいる人の中で出会えたこと、 心臓ごと食べられてしまってもいいと思えるような、そんな恋。 意地悪なトコロは、嫌いだけど。 …なんてね。 (その手に触れて完熟) |