気持ちは何一つ変わらないのに、どうしてこんなに素直になれないんだろう。





「んー…」


1時間前から携帯電話とにらめっこ。

画面に表示されているのは他でもない恋人の名前で。


「…どうしようかな」


時間だけが過ぎていって、今日も僕の心は折れてしまいそうだ。

こんなに長い彼女の声を聞かないのは初めてで、この時間と距離に、いろんな不安が頭を駆け巡っていく。

今までも電話しようとしたことがあったけど、その度に妙に考えこんでしまってなかなか実行できない。

通話ボタンを押してしまえばいいのにそれができないのは、まだ彼女に僕のすべてを見せられていないからなのかな。

どうしても子供っぽいとか迷惑だって思われるのが怖くて素直になれない。



「っ」


突然鳴り響いた音に、大袈裟なくらい驚いてしまった。

画面に表示された名前を見た瞬間に一気に高まる鼓動がうるさい。


「っ…もしもし」

「あ、梓くん?いま平気かな?」

「平気ですよ。どうしたんですか?」


何も悟られないように冷静を装って声を出したけど、思ってる以上に声が震えてしまった。


「ううん、用事はないんだけど声が聞きたくなっちゃって…ごめんね、なかなか連絡取れなくて」

「先輩が忙しいのはわかってますから大丈夫ですよ。僕の声を聞いて安らぎますか?」

「…うん、すごく安心する」


電話越しの声は少し疲れているようにも思えて、無理をしてでも電話をかけてきてくれてるんだと思ったら胸が痛んだ。

けれど、それと同時に先輩からの愛を感じて思わず嬉しくなってしまう。


「…大学には慣れましたか?」

「うん!忙しいけどすごく充実してるよ。梓君は最近どうしてる?」

「僕は相変わらずですよ。後輩だったり翼の面倒を見てます」

「ふふふ、楽しそうだね」


他愛のない話でも、先輩の声がゆっくりと身体に染み込んでいくのがわかる。

こんな風に心から安心したのはいつ振りなんだろう。



「でもね、梓くん」

「?なんですか…?」


そう言うと先輩は少し考え込むようにして黙ってしまった。

僕は電話を片手に壁に掛けてある時計を見た。そして寮から先輩のところへ行くにはどれくらいの時間になるかを考える。

すこしだけ沈黙が続いた後、先輩は小さな声で話し出した。


「……いくら充実しててもやっぱり梓くんがいないと、寂しいな」

「っ」


この一言を聞いた瞬間、居ても立ってもいられなくなった。

先輩は僕のプライドとか、強がりとか、何もかもを崩してしまうんだ。

こんなに胸が締め付けられるくらいに彼女のことを愛しく思ったのは初めてで、自分でもどうすればいいかわからない。


「先輩、いまから、」


会いたくて。あいたくて。

今すぐに先輩と会って、力一杯抱き締めて、キスをして、あの温もりを感じたい。


電話から彼女の驚いた声が聞こえた気がしたけど、聞こえなかったことにして部屋を飛び出した。



もどかしい距離を埋めるために

























(あなたのこえ、きかせて)

(´゚Д゚`)ぽかーん

慌てる梓君が見たかったがゆえに出来上がったお話です。彼のプライドはすごいんじゃないかと…