「終わり良ければ全て良し」?


最後さえ綺麗なら、それまでにあった醜い思い出まで綺麗になるの?

何もかも、全部。


じゃあ、もし最後が綺麗じゃなかったらどうなるの。今までの綺麗な思い出まで、醜くなるの?


何もかも、全部。





そんなのあまりにも不公平だよ。






「―――…ごめん」


少しずつ、春が近付いてると思ってたのに、また雨が降ってきちゃった。

風もまだ冷たいし、季節って自分達が思ってるよりなかなか進まないものなのかなぁ。


「本当に悪い、」


目の前に立っている愛しい人は、何度も何度も同じ言葉を繰り返す。


「…俺、本当にお前のことを真剣に考えていたんだ、それは信じてくれ」

「…はい」


片思いしたのもわたしで、告白したのもわたしで、もちろんわたしの気持ちの方が大きいのはわかってた。

だけど、やっぱり終わりがくるのは怖くて。


「ただ、俺はお前の未来をつぶしてしまうだけだと気づいたんだ。どうすればいいのか、何が正解なのか俺にもわからないけど、」

「もういいです」


未来とか、わたしの為とか。

そういう言葉が聞きたいわけじゃないし、謝ってほしいわけでもないのに。


「…もう、いいです」


わたしが何を言っても貴方はいつも一人で先に進んでしまうんだ。

いくら必死で追いかけても貴方には届かないんだ。そしてもう隣で歩くことも追いかけることもできなくなる。


「琥太郎さん…」

「ん?」


こんなこと言ったら困るかもしれない。それはわかってるけど、最後くらい困らせたっていいよね。


「わたしの事、少しでも好きでしたか」

「あぁ、もちろん」

「わたし、良い彼女になれていましたか」

「あぁ」


泣いちゃだめだ、笑え、わたし。

最後の最後まで彼の優しさに甘えちゃいけないんだ。


「好きです、琥太郎さん…っ」

「お前、」

「好きです…っすき…!」


わたしの言葉が空に消えていった瞬間、目の前が真っ暗になった。

背中に回された琥太郎さんの長い腕、頬に当たるサラサラの髪、肌に感じる琥太郎さんの温もり。


「もうやめてくれ…」

「っ」

「俺の決心が崩れてしまう。頼むからもう何も言わないでくれ…っ」


男の人とは思えない細い肩が震えていて、わたしも彼の背中に腕を回してこれ以上ないくらいにぎゅっと抱きしめた。

春の光に包まれていた街に、ぽつり、ぽつりと雨が降り始める。

視界が歪んでいくのは雨のせいだよね。




「…ありがとう、ほんとうに」




貴方は最後まで愛してるもさよならも言ってくれない。

やり場のないこの大きな愛は消えてしまえばいい、そう願っているけど、貴方との繋がりになるのなら消えてほしくない。



――――…嗚呼、雨よ。

いっそのこと全てを流してくれないだろうか。

わたしの存在も、何もかも全て




跡形も残さず、綺麗に。















(留まれども、進めども)

失恋した友人が「終わりよければもう何でもいいじゃん」って言ってたことを思い出して書いた作品。

あとは春の雨っていう単語が使いたかっただけ。春雨(ハルサメ)じゃないですよ。

琥太にぃはどうしてもシリアスな展開しか思いつかなった(´ω`)