どうして泣いてるの?

僕がそう問うと彼女はその涙を溢れさせた瞳で僕の顔を見つめて、幸せだからですと答えた。

電気を落としたこの暗闇の中で、彼女のすすり泣く音だけが聞こえて少し不思議な感覚になる。

ベッドの横に置いてた水を少しだけ飲んで、彼女の隣に寝転がると、彼女はまるで猫みたいに甘える。ぎゅうっと背中に腕を回してきて、僕の胸に頭を埋めた。

肌と肌が触れて新しい温もりが生まれてる気がして、頬が緩む。


「…あったかい」

「…わたしもです、」

「うん」


絹のような髪の毛に指を滑らすと、僕と同じシャンプーの香りがした。


「…郁、ねぇ郁」

「ん?」

「好きだよ、わたし、すごく」


いつもそうだ。いくら僕が意地悪をしても、余裕を見せてみても、結局は君が全部さらっていっちゃうんだ。

彼女の発する言葉には何か魔法がかかってるんじゃないかと思うくらいに。


「…本当、君には」

「"敵わないよ"…ですか?」

「こーら、調子に乗らないの。」

「ふふ、ごめんなさい、でも」

「すこしだけ黙って…」


彼女の柔らかい額に唇を落とすと、驚いたのか彼女は大人しくなった。

そのまま頬に、瞼に、キスを落としていく。その度に僕の腕をぎゅっと握る君はあまりにも可愛すぎて。


「………好きだよ」

「っ…いく、」

「うん、愛してる…かな」


昔の僕は今を生きることすら億劫で、未来のことなんて考えたこともなかったんだ。どうせ適当に生きて、適当に思い残すこともなく死んで。

ずっとそうなると思ってたんだ。

でも、これからは君がいるからそうにもいかないね。




「……月子」

「はい、」

「…なんでもないよ」



言葉が見つかれば、必ず言うよ。




(君の未来を、僕に、)