黒を基調とした車内は、普段の琥太郎さんからは想像もできないくらい、埃一つなく綺麗だった。

すこしだけ甘い香りがするのは車に置いてある芳香剤なのか、琥太郎先生の香りなのかわからない。

わたしは待ち合わせ場所でもらった缶ジュースを手の中で転がしながら、なんとか気持ちを落ちつけようとした。


「…ん?どうかしたか?」

「っい、いえ!」


でも、ずっとずっと心臓はうるさく鳴り響いてるままで。

隣で運転している琥太郎さんは気づいているんだろうか。わたしと琥太郎さんが今まで隣に座った事がなかったってことに。

二人で出掛ける時はわたしが琥太郎さんの前に座ったり、向かいに座ったり。隣同士に座る機会はあるようで、なかった。



「…っ」


琥太郎さんが免許を持っていて、車を使うこともわかってたはずなのに。実際に隣でそれを見ると彼女の欲目かもしれないけれど、余計にかっこよく見える。

"助手席に座れるのは彼女の特権"だなんて言うけど本当なのかな。

わたしは好きになったのも彼氏っていう存在も琥太郎さんが初めてだけど、琥太郎さんはそうじゃないかもしれない。

直接そんなこと聞いたことはなかったけど、わたしより大人で、恋愛の経験だってもちろんあると思う。


(もしかしたら、他の女の子を、)


ぐるぐると色んなことを考えているうちに、気付けば信号は赤になっていて、それを見た琥太郎さんはゆっくりと車は止める。


「月子、」


名前を呼ばれて我に返ると、頬に柔らかい感触。

あまりにもいきなりのことで驚いて琥太郎さんの方を見ると、琥太郎さんは満足したように笑顔になる。


「…っ!」

「やっとこっち見たな」

「あの、琥太郎さ、」


恥ずかしさとか驚きとか、いろんな感情が交差して言葉にならない。

慌てふためいていると琥太郎さんはわたしの頭をゆっくりと撫でた。


「考えてることが全部顔に出てるぞ」

「っえっ、あの、」

「助手席にはお前しか乗せてないし、これからもお前しか乗せないから安心しなさい。」


あまりにもサラリと言うから、一瞬、言葉の意味を理解できなかった。

過去と未来が含まれてる答え。

初めて見る琥太郎さんの真っ赤な顔。




「…嬉しい、です」


琥太郎さんは大人で、わたしは子供で。いくら背伸びをしてもわたしばかりがドキドキしてるのかなって思ってた。

でも、違うんだよね、



「…笑うんじゃない」

「ふふ、琥太郎さんが照れてる」

「うるさい、大人をからかうな」

「赤くなったところ初めて見…」


青信号になった瞬間に唇に感じたのは間違いなく恋人の熱。

呼吸ごと絡めとられて、それで一気に体温が上がってしまうわたしと形勢逆転と言わんばかりに笑う琥太郎さん。



「ふっ不意打ちは反則です!!!」




鼓動は、やっぱり止まらない。



























(奪われた、青)
神鳥ソラさんリクエストありがとうございます^^