桜が散り終わって土になった後にやってくる季節は、暖かくてふわふわしてて、何だか無意識に頬が緩んでしまうなぁ。

まるで、愛しい人と一緒に過ごしてる時間のようだ。


「誉さんっ!」


恋人を迎えにきた星月学園の屋上庭園。

僕が卒業してからも足を運ぶことが多いのにどうしても卒業してしまうと学園ひとつひとつの景色が懐かしく感じてしまう。すこし前までここに自分がいたんだなぁと思うと不思議な感覚になる。

そしてパタパタと急ぎ足で僕の元にやってきた彼女と逢うのはすこしだけ久しぶりで。


「すっすいません!お待たせしました!」

「ううん。生徒会だったんでしょ?お疲れ様」


いつものように今日は星が綺麗だねとか、今日は部活どうだった?とか、他愛のない話をして。僕は座ってたベンチをぽんぽんと叩いて彼女を隣に誘う。

いつもならこうすると笑顔になって僕にくっつくようにして隣に座ってくれるのに。今日はどうしてか立ったまま動こうとしない。


それどころか少しだけ泣きそうな顔をしている。



「…どうかしたの?」


あまりにも不安げな顔をするものだから、少しだけ焦りを感じてしまった。僕が何かしただろうか。それとも、何かあったんだろうか。


「あ、あの…誉さん」

「ん?」


彼女は一度だけ深呼吸をして何かに納得したように小さく頷いて僕を見る。

その視線は強くて、でも優しくて。


「あの、あの…っお誕生日おめでとうございます」

「え?」


思わず素っ頓狂な声を出してしまったのは、僕自身が自分の誕生日をすっかり忘れてしまってたから。きっと間抜けな顔をしてたんだろうなぁ。

そんな僕に気付いた彼女はふわりと笑う。

そしてそのまま僕の手を取って、ぎゅうっと握りしめる。


「誉さんと出会えて、好きになれて、本当に嬉しいです」

「…」

「誉さんが生まれてきてくれて本当に嬉しいです。先輩としてもすごくすごく尊敬してます。優しくて強くて、わたしなんかが彼女でいいのかなって思うこともあるんですけど…でも彼女になれて幸せです。」

「月子さん、」


こんなに直接気持ちを話してくれるのは初めてだ。

僕がずっと彼女の目を見つめていたせいで彼女はすこし恥ずかしくなったのか、地面に視線と落とした。



「ずっと、一緒にいてもいいですか?」

「…っ」


思わず握られていた手を引いて彼女を抱き寄せる。

彼女の髪が頬に触れた瞬間、桜の残り香が鼻を擽ったような気がした。

腕の中の華奢な身体は驚いたのかすこしだけ固くなる。ごめんね、苦しいよね。でもそんな可愛いことを言われたら離せないよ。

強く強く抱き締めて、このまま彼女を僕のものにしてしまえたらって思ってしまうんだ。


「…それは、今日一晩中ってこと?」

「っ!」


わざと耳元で囁くと音を立てるように全身を赤くする愛しい人。そんな可愛い反応をするから、意地悪したくなっちゃうんだ。

こんな表情を見られるのも、彼氏である僕の特権だから。


でも、今はこれで充分なんだ。

君に触れられる場所にいられるだけで。


「…ふふ、冗談だよ」

「誉さ…」

「うん。ありがとう。大丈夫だよ、ちゃんと伝わってるよ。」


そう言うと彼女は大人しくなって僕の服をぎゅっと握った。

その手から温もりが伝わってきた時に、僕は目を閉じた。





「ずっと傍に居て下さい。僕のお姫様」


愛しい人の為なら何度でも生まれ変わるよ。君が望んでくれるのなら、いつだって、会いに行くから。

















(不器用な愛を精一杯)
誉先輩誕生日おめでとうございました。