綺麗だ、と素直に思ったんだ。

透き通るほど白い肌、その肌に映える赤い唇、絹のように柔らかい髪の毛、何もかもが綺麗だ。

そんな気持ちを僕はいつの間にか声に出していたらしく、僕に組み敷かれてる恋人は見る見るうちに顔を真っ赤に染める。


「ふふ、可愛い」

「み、見ないでくださ…っ」

「駄目。顔は隠さないで」


顔を隠そうとする恋人の両手を掴んでベッドに縫い付けると、恥ずかしそうに潤んでいる瞳がゆっくりと僕を見上げる。

すこし不服そうに僕を睨みつけているけど、なにもかも逆効果だよ。

今すぐにめちゃくちゃに抱いてしまいたい衝動に駆られる。好きな子を目の前にした男にとって、理性をかき集めるのがどれだけ難しいことなのかわかってるのかな。

そんなに可愛い顔で、可愛い反応されたら、今すぐ君が僕しか見れないようにしてやりたい、と思ってしまう。君を、僕でいっぱいにしたいと。


だけど、大切にしたいと思うのも本当で。

心から好きになった相手には優しくしたいと思うし、傷はつけたくない。




「…怖い?」

「すこし、だけ」


君の不安を拭うためにはどうすればいいかわからなかった。

ただすこしだけでも安心して欲しいと思って髪をなでて、頬にキスを落とす。

暗い部屋の中でも恋人の身体が震えているのが分かる。


「わたしは、」

「ん?」

「わたしは…っ全部、郁が初めてです」

「…うん。知ってるよ?むしろ僕じゃなかったら困るんだけど」


そう言うと恋人はふわりと笑う。

その表情にどくりと心臓が動くのがわかった。


「でも、郁は」


全部わたしが初めてじゃないんですね、と拗ねたように、不安そうに声を漏らした恋人。予想もしてなかった言葉に思わず息を呑む。

そりゃ僕は恋人よりすこしだけ長く生きているし、本気じゃなくてもそれなりにデートもしたし、付き合ったり、こういうこともなかったわけじゃない。

なんて言えばいいのかわからなくて、僕はゆっくりと喉仏のないその真っ平らな首に唇を落とした。

彼女が驚いて僕の身体を押し上げようとするけど、その力はやっぱり微力で。そのまま薄い皮膚をすこしだけきつく吸うと、紅い花が咲いた。

女の子にこんなことしたことはなかった。独占欲の証みたいな、こんな真似。



どうすればいいんだろう。

こんなに心臓を潰されそうなくらいに愛しい気持ちになったのは、


「…僕も、はじめてだよ」

「…っえ?」

「こんなに誰かを好きになったのは、初めてだ…っ」


本当はすごくすごく緊張してるんだ、僕だって。

君は気づいてないかもしれないけど、本当は手も少しだけ震えてる。今まで緊張して手が震えることなんてなかったのに。

君の初めてが僕なんかでいいのかって、君にはもっとふさわしい相手がいるんじゃないかって、そう思ったりもする。

僕がそんな大事な役目を預かっちゃいけないような気がするんだ。



「…すき、です」

「っ」

「郁、」



君の言葉を途中で遮ってしまった。

もう時間切れだ。

僕の名前を呼ぶその声も、その声が発せられる唇も、その身体も、全部全部、僕のものにしたい。今すぐ。一瞬でも早く。

心臓を止めてしまえるくらい強く強く、その小さく華奢な身体を抱きしめると、彼女の腕が僕の背中に回った。

痛いくらいに僕の背中に食い込む爪と、震える腕は、君が勇気を出してくれている証で。




「……優しくするから、」


この感情を永遠にするためになら、なんでもするよ。

出来る唯一のことを、何百回でも。

















(甘やかせ劣情)