「…ごめんな、」


電話越しに聞こえて来た恋人の声はすごく落ち着いていて、一歳しか変わらないのにわたしよりもずっと大人だってことを実感させた。


「そんな…大学が忙しいなら仕方ないですよ。気にしないでください」

「ほんとに悪いな。」


明日に迫った一樹さんとのデート。

大学に進学した一樹さんと、受験生になったわたし。環境が変わったせいかお互い今まで以上に忙しくて、ちゃんとデートするのは二ヵ月ぶりだった。

今まで毎日会っていた私達にとって二ヵ月っていう期間はあまりにも長い。

だから明日のデートがものすごく楽しみで、少しだけ気合いを入れてお弁当の材料を買いに行こうとした時に、一樹さんからの電話。

"悪い、明日大学で特別授業に出なくちゃいけなくなった"って。


寂しくないとか、悲しくないなんて言えばウソだ。でもそれは仕方ないことだし、最近はこれの繰り返しだったから妙に納得してる自分もいた。


「大学頑張ってくださいね!」


我儘なんて口が裂けても言えない。

子供っぽいって呆れちゃうかもしれないし、怒っちゃうかもしれない。

それだけは嫌だ。一樹さんの重荷にだけはなりたくない。


「今、外に出れる?」

「え?」

「星がすげー綺麗だからお前も外に出て見てみろよ。」


…急にどうしたんだろう。

一樹さんが話の途中でも急にこんなこと言い出すのはよくあることなのに、何故かすごく不思議な気分になった。

一樹さんがいつもよりすごく落ち着いているからか、わたしが少しだけ寂しいと感じてるからか。


「出てみます、外」

「おう。部屋出る時は静かにな」


言われるがまま、静かに寮の玄関先まで出る。外に出ると少し冷たい風が肌を撫でていった。

電話を繋いだまま、空を見上げて、思わず息を呑んだ。


「わぁ…」

「すげーだろ?満天の星だ!」


真っ暗な空には満天の星が広がっていた。

田舎ということもあって周りに街灯がないから、すごくはっきり見える。数えられないくらいの星座が並んでいて、見慣れている光景なのに泣きそうになった。

あまりの凄さに言葉が出ない。

瞬きする度に流れ星が流れていって、そこには幻想的な世界が広がっていた。

いくら言い伝えといえども、この星たちに願いをかけたら本当に叶いそうだ。



今、この瞬間、一樹さんに会えたら、



「…なんて」


何を考えてるんだろうわたし。

こんなことを願うなんて、星たちだって迷惑しちゃうよね。



「どうかしたか?」

「なんでもないです、何でも」


愛しい人の声は低くて、柔らかくて、優しくて。電話越しでもこんなに安心する。

ほら、距離なんて関係ないじゃないか、今は繋がってるんだ。

だから大丈夫。




会えなくても、こんなに近くで、





「…月子」


背中に温もりを感じた、と思った瞬間には後ろから回ってきた腕に身体を包み込まれていた。

ぎゅっと抱き締められて、思考が止まって、携帯が地面に落ちた音がして、息の仕方さえわからなくなった。



…わたしは、夢でも見てるんだろうか。



振り向かなくたってわかる。ずっと感じたかった温もりが傍にある。ずっと会いたかった愛しい人が此所にいる。


「…一樹さん…?」

「おう。ちょっとしたサプライズだ。お前星に夢中になってたから俺に気付いてなかっただろ?」


いつもと変わらない調子で話し出す一樹さんに、いつもと変わらない温もり。


「お前が俺に会いたいんじゃねーかなぁと思って会いに来た…つっても二ヵ月くらいだったらそんなに思わねぇか」

「こんな、いきなり、」

「驚いただろー?作戦成功だな」


一樹さんは笑ってわたしの髪の毛にひとつキスを落とした。


どうしよう、まだ頭の中がぐちゃぐちゃだ。混乱してる。

どうしてこの人はいつもいつも突然なんだろう。突然デートを断ったり突然会いに来たり。



「…悪かったな、構ってやれなくて。寂しい想いをさせちまった。」

「…っ」

「お前が寂しがってることも、それを俺に見せないように我慢してたのもわかってたのにな…本当に悪い」



――…本当は、本当は。


貴方に会えない日々はものすごく怖くて、苦しくて、耐えられないことが多かったです。

貴方が傍にいないだけで不安になって、悲しくなって。自分がどれだけ弱いか分かった気がします。

ちょっとは強くなれたかな、なんて自惚れもいい所だ。


寂しさとか、愛しさとか、嬉しさとか、いろんな感情が溢れ出して頬を伝っていく。


「……っ会いたかった。こうやって抱き締めたかった。ずっと」

「っ」

「本当はこのまま連れて帰って俺のものにしてやりたい。会えなかった時間なんか忘れるくらいお前を俺でいっぱいにしたいんだ」

「かずきさん、」




重なり合った吐息は、空へ。



「…愛してる」



願わくば君の幸せ、わたしの幸せ。


ふたりのしあわせ。











(闇の中で爛々と)

展開が思い付かなくてダラダラと長くなってしまった挙句この終わり方(゜∀゜)

ぬいぬいかっこいいのに書けない

わたしが書くぬいぬいはぬいぬいにはならない。なんで?