空はいつもより高くて、空気が澄んでいるからかいつもよりたくさんの星が照っている感じがした。ゆっくりと吐く息が白く濁って空に消えて行く。

雲ひとつないから明日はきっと晴れるだろうな。暖かくなればいいな。

空を眺めながら向かった場所は、屋上庭園。



「…郁」

「うん。こっちおいで」


今日は恋人との、最後の日。

いつものように優しく手を差し伸べてると、彼女も当たり前のようにその手を僕の手に重ねる。

優しく笑いかけてくる彼女。乱れる心臓の音を隠すように咳払いをした。


「郁、今までありがとうございました。」

「…うん」

「わたしは、すごく、すごく楽しかったです。でも郁の考えを変えることはできなかったみたいですね…」


何にも変わらない、いつもと変わらないのに。彼女の表情があまりにも歪んでいて、思わず息を飲んだ。


「最後にひとつ、聞いてもいいですか」

「うん。何?」

「どうして郁はいつも嘘をつくんですか」


彼女の瞳から思わず目を反らした。

悲しげに、でも強い視線が僕の心をすべて曝け出してしまいそうで。


「心外だなぁ。そんなに僕は嘘はついてないよ?」

「…それも、嘘です」

「…うん。そうだね。」

「わたしも嘘をつけばいいですか。嘘をついて、自分の気持ちから目をそらせば、郁の気持ちを理解できますか。」


僕の気持ちを理解なんかしてほしくないんだ。

汚くて醜い独占欲の塊なんだから。君は汚されちゃ駄目なんだ。



嘘をつくのは得意で。だけど、それは誰の為でもなくあくまでも自分の為。

だから、今ここで君に嫌いだと、もう二度と僕に近寄らないでくれと冷たい言葉を吐くことだってできる、はずなのに。



「わたしも嘘をつきます」

「え?」


僕の手を握ったまま彼女は俯く。

すこしだけ揺れる髪の毛から少しだけ甘くて優しい香りがした。



「わたしは、郁が嫌いです」

「うん」

「大嫌い、です」



お子様の精一杯の"嘘"。


上手く隠せもしないのに嘘をつくから、僕の心はまた揺れるんだ。

嘘をつくならもっともっと上手に、僕に見透かされないような嘘をついてよ。声も身体も、そんなに震えているのに。

契約とかゲームとか。最初にそう言ったのは僕の方だ。

だから今更この手を引いて、きつく抱きしめて、愛しい彼女の耳元で優しく囁きかけられるわけもなく。衝動を堪える。



「…僕も、君が好きだよ、」

「っ、」

「これも、嘘。」



彼女の瞳から伝う雫を拭ってあげる事は僕にはできなかった。愛してるというのはこんなにも難しくて、胸が張り裂けそうで。


嫌われても構わない。

むしろその方が楽だ。



僕には、君を泣かせないよう愛す方法が見つからないんだ。


























(染まりきらない白)