「ね、ねぇ…翼くんってば」

「ぬ?なんだ?」


このままじゃ、息ができないよ。

そう言うと翼くんは少しだけわたしを抱きしめる力を緩めてくれた。


「は、恥ずかしいよ」

「だめ!離さないぞ。」


さっきからずっとこの調子だ。

今日は部活が長引いてしまって生徒会室に着いた時には、生徒会の仕事は終わっていて、みんなが帰る準備をしていた。

会長と颯斗くんが帰った後に、ソファーに座ってボーっとしていた翼くんに声を掛けると、そのまま捕らわれてしまった身体。

ぎゅうっと抱きしめられて、見動きがとれないままどのくらいの時間が経っただろう。甘いものが苦手なハズの翼くんからほんのりチョコのような甘い香り。


「どうしたの?」

「ぬぅ…なんでもない。」

「なんでもなくないでしょ?翼くん変だよ?」


あまりにもきつく抱きしめて来る翼くんの胸を叩くと、すこしだけ力を緩めてくれた。

でも翼くんとの距離はほんの僅かで、顔なんか、今にもくっついてしまいそうだ。


「つばさく、」

「ん、だめ。動かないで」


恥ずかしくなって顔を反らそうとしても頬に添えられる大きな手がそれを許してくれない。目をそらせばいいだけなのに、なぜか翼くんの熱い視線がねっとりと絡みついて、それすらできない。


目を閉じるまもなく、唇に感じる柔らかい感触。突然のことに驚きを隠せなかったわたしは反射的に翼くんから離れようとしてしまう。

けれど翼くんの長い腕がわたしの背中に回って、さらに深く唇を奪われる。


「んぅ…っ…!」


呼吸も声も、なにもかもを絡めとられてしまう。

深く深く口付けられて、翼くんの熱が、伝わって来る。静かな生徒会室に響く水音がリアルで、恥ずかしい。そう感じてることを翼くんはわかってるはずなのに。


「っ…どうしたの、」

「他の男に笑っちゃだめだ。触らせてもだめだ。」


ふと唇が離れて耳に入って来た言葉。

目の前には不機嫌そうに口を尖らせる翼くんがいて、わたしの手をゆっくりと取った。その手は驚くほどに冷たくて。


「翼…くん?」

「梓でも!ぬいぬいでもそらそらでもダメだぞ!書記は、俺以外の人に触らせちゃダメなんだぞ!」


指と指を絡めるようにして繋ぎ、そのままわたしの指に唇を落とす。

薄く柔らかい唇に啄むようにキスをされたかと思うと舌が伸びてきてわたしの指を舐めあげた。



「っ…!」


びっくりして手を振り払おうとしても、敵わない。身体ごと引き寄せられ、至近距離でわたしの指に唇を這わす翼くんの姿を見るハメになってしまった。

丁寧にキスを落としていく翼くん。わたしは見動きが取れずに、されるがままの状態だ。顔の熱がどんどん上がっていくのがわかる。


少しだけきつく皮膚を吸われた感覚に視線を落とすと、薬指の付け根に赤い印。そして上目づかいをするみたいにわたしを見て来る視線とぶつかる。


「翼く、」

「書記は、俺のモノだ」


いつもは年下みたいに無邪気に笑ってて、見ていてすっごく微笑ましい。そう言うと彼はすごく不機嫌になっちゃうけれど、そんなところも可愛いと思ってしまう。

でも。ふとした瞬間にこうして男の人みたいになるから。その度にわたしは心臓がかき乱されてもっともっと好きになるんだよ。



不安そうな顔をしたり、強引になったり。どんな翼君だってすごくすっごく愛しくて、どうしようもないんだ。


気持ちが溢れて、蓋ができなくなってしまってる。




「書記は俺のこと、好きか?」




気持ちを伝えるかわりに、わたしからも翼くんの薬指に唇を落とした。

























(絡みついて離れないの、)