「!わっ」 放課後。 図書室で課題を終わらせ、帰ろうとしていた途中。廊下の曲がり角から勢いよく飛び出してきた生徒とぶつかった。 あまりの衝撃にお互いが転びそうになったけど、なんとか相手の腕を掴んで耐える。 掴んだ腕はとても細く弱弱しくて、女子生徒の制服だ。学園で女子生徒を着てるのはたった一人しかいないから、すぐに誰だかわかった。 「びっくりした。ごめんごめん。ちゃんと前見てなかった。」 「…っ」 「結構強くぶつかっちゃったな。ケガし…」 ふとアイツの顔を見ると、俺の目に飛び込んできたのは、 「っ…錫、也」 涙で顔がぐしゃぐしゃになってるアイツで。 「っ…どうした?」 「なんでも、ない」 泣き顔なんて、久しぶりに見た。 いつも悩みや悲しみは一緒に抱えてあげたいと思ってるし、それはアイツもわかってるはずなんだ。だけどそれを許してくれない。嘘は下手なのに、頑張って笑って誰にも心配をかけないようにするんだ。 「そんな顔してるのに何でもないわけないだろ?」 「っ…」 「何があった?」 そんな強がりな幼馴染が泣いてる。 こんなに心臓を乱されることはない。冷静を装って接してるつもりでも、本当は自分でも情けないくらいに動揺してるし、いざとなったらなんて言葉をかければいいのかわからない。 いつも、どんなことがあっても前向きに進んで行くから、俺は後ろで歩いてた。いつでも背中を支えてあげられるように。 「…った、」 「え?」 「っ一樹会長と、別れた…っ」 一瞬。耳に入って来た言葉の意味を理解できなかった。 誰よりも強い絆で結ばれてたはずの、二人が。 「…どういう、こと?」 「夢があるんだって…っおおきな、夢」 "それは、お前と別れなきゃいけないほどのことなのか?"。 コイツが欲しい言葉はきっとそんなものじゃないんだろう。たとえ俺がコイツの求めている言葉を言ったとしても、何の意味もないんだ。 言葉の代わりに泣き崩れてしまいそうな華奢な身体を精一杯抱きしめる。小さい頃からそうしてたように、慰めの意味だけを込めて。 「っいいの、後悔はしてないの、なんにも」 このまま腕の中の存在を俺のものにできたならどんなに幸せなんだろう。こんなに近くにいるのに、遠いのは、なんでなんだろう。 されど幼馴染。たかが、幼馴染。 それがこんなに苦しいなんて。 「会長の夢は、わたしの、夢だから、」 やっぱり何も変わってない。 コイツは自分のことなんて何にも考えない。自分が傷ついても、苦しくても、ただただ誰かを笑わせる為だけに一生懸命になるんだ。でも、逆を言えば自分の事を大事にしない。俺は昔からそこだけが心配だった。 「うん、わかってる」 「っ」 「応援してあげたいんだろ?わかってるから。大丈夫だよ」 だからこそ、俺が大事にするって心に決めたんだ。なんて、傍に居たいっていう口実かもしれないけど。 「俺はずっと、一緒にいるから」 「っ…すず、」 「全部、受け止めるから」 ごめんな、こんなに苦しんでるのに、正直羨ましいんだ。俺にはお前を泣かせることすらできないんだから。 泣かせたり、喜ばせたり、そんな存在にすらなれないから。 今の俺には、その涙すら眩しいんだよ。 傷のひとつまで、涙のひとつさえ (触れられないんだ、) |