あ、晴れてきた。

そう声に出すと、ソファーに座ってた彼女が少しだけ怒った顔をして僕のことを睨んでくる。いつになったら怒った顔も可愛いってこと自覚してくれるのかな。


「なーに?」

「だから、今日出掛けようよって言ったのにー」


さっきまで幸せそうにクッキーを頬張ってた彼女は、気付けばクッションを抱きかかえて窓の外を眺めながら頬を膨らませている。

彼女が学園を卒業して、僕も大学があって。

住んでいる距離が離れてしまったせいで逢える回数は依然より随分減ってしまった。今日だって久しぶりに彼女と一緒に時間を過ごしてる。

彼女はせっかくのデートだからどこかへ出かけたいと言ってたけど、朝から雨が少し降っていて、僕の部屋で過ごす事になった。

まぁ、僕が半ば無理矢理連れて来たんだけど。


「なーに、まだ拗ねてるの?」

「拗ねてないもん」

「嘘。そうやって頬を膨らませてる君も可愛いけど、せっかく久しぶりに一緒にいるんだから、笑ってくれないとつまらないんだけど」


彼女の隣に腰を下ろして華奢な肩に頭を預けると、緊張してるのか少しだけ身体が震えていた。甘い香りと温かい体温を感じて目を閉じて息を吐く。

彼女に会えて、触れられるだけで、こんなにも嬉しい。誰かと会って安心するなんて、昔の僕が見たらびっくりするだろうな。


僕の髪の毛が首に当たってくすぐったいのか彼女が身を捩る。

そんな彼女の身体を捻るようにして僕の方に引き寄せ、後ろからぎゅっと抱きしめた。


「ど、どうしたの郁…」

「ん?どうもしないけど。抱きしめたいと思っただけだよ。ダメ?」

「ダメだって言っても離してくれないでしょ?」

「ふふ、そうだね。」


彼女に見動きひとつ許さないように腕に力を入れて拘束する。もっと抵抗するかと思ったのに、意外と素直に僕の腕を受け入れてくれた。

その綺麗な首筋に唇を寄せると、くすぐったそうに笑う。

ねぇ、僕のこの鼓動が聞こえるかな。

「い、郁、苦しいよ」
「当たり前でしょ。抱きしめてるんだから」
「…なんだか今日は甘えんぼだね」
「それだけ君のことが好きだってこと。わかってる?」

驚いたように顔を赤くするのがわかって、彼女のことをもっともっと自分の腕の中に閉じ込める。

彼女は僕のことをズルイって言うけど、こういうところは彼女の方がよっぽどズルイよ。僕から見る世界がどれだけ明るいものになったのか知らないんだから。

こんなに優しい気持ちになれたことも、温かい気持ちになれたことも。君の一挙一動に不安になったり嬉しくなったりすることも。

ちょっとしたことで嫉妬したりすることも。

本当はいつだって君を愛したいと思っていることも。


「郁、好き」

「…うん」






―――…全部。














(サイハテ)
時人さまリクエストありがとうございました^^