初めて好きになった相手は、どうしようもなく不器用な人で。

好きだからこそ知りたくない事まで気づいてしまう。

それは誰にだってある事だと思ったし、恋に嵌まっていくうちにそれはしょうがない事だと自分に言い聞かせられた。彼の全部をひっくるめて好きになりたいと思える、そんな特別な人だったんだ。

彼の気持ちが離れていってることには気が付いていたけれど、それを察して、いくら彼の幸せの為とはいえ、自分から身を引くなんてことできなかった。




「…傍にいたいと思える奴ができてしまったんだ。」




だから、待ってたの。

―――…そう、待ってたんだよ。



「お前のことを嫌いになったとか、好きじゃなくなったとかそういうのじゃないんだ。勝手なことを言ってるのは自覚している、しかしそれだけはわかってほしい。」

「うん。わかってるよ。」


いつもと変わらずに、ひとつひとつ丁寧に言葉を紡いでいく宮地くんは、もうわたしが知ってる宮地くんじゃないみたいで。

さよならを告げられるのはわたしの方なのに、彼の方が辛そうなのは、本当に真剣に向き合ってくれてるからだろうな。

きっとわたしが想像してる以上に彼はわたしのことを考えてくれてるんだ。

呼びだされた公園で街灯が付き始める。

久しぶりにかかってきた宮地君からの着信。いつもと同じように用件だけを単調に話す彼は、どこか余所余所しかった。

好きになり過ぎると少しのズレでも大きなものになってしまうんだ。いつかこんな日が来ると思っていたけれど、やっぱり少し、怖い。

宮地君から手渡されたココアは、いつの間にか冷めてしまっていた。


「ふふ、そっか。うん、わかったよ。」

「お前…」

「宮地君の中で答えが決まってるなら何にも言わないよ。宮地君は頑固だから…だから、ね。わたしは平気だからその人のもとに行ってあげて」


もうすぐ、今日も終わるんだ。わたしたちも、一緒に。

明日なんて来なければいい。時間なんてもう一度戻ってしまえばいい。

そうすればもっと、もっともっと頑張れるのに。

わたしに残されたことは、彼を笑顔で見送ることしかないなんて。


「……平気なわけ、ないんだ。」

「…え?」

「ずっと一緒にいたんだ。お前が無理をして俺の為に笑ってくれてることもわかってしまう。お前にはそんな顔をさせたくないと思っていたのに。俺がこんなに愚かだから、」


そんな顔されたら、好きも、なにも言えない。

この焼け爛れた喉で、掌で、脳髄で、全身で、あなたのことを愛してるとそう言いたいのに、もう声にならない。

息をしたらそのまま泣いてしまいそう。嘘だけがわたしの味方になってくれるんだ。


「宮地君と会えて、好きになれたことが幸せなの。だからもうこれ以上幸せになったらバチが当たっちゃうよ…ふふふ」


やだよ。

本当はずっと、傍にいてほしいよ。



「わたしは平気だから、本当に。」



平気じゃないよ。

ねぇ、悲しいよ。苦しいよ。



好きだよ。









「ありがとう。龍之介。」






少しは大人になれるかな。























(My special skill is to tell a lie.)
ぐだぐだだ。