欲しいモノなんて生きてる間に見つかるとは思ってなかった。

何も望むことなどなく、死ぬほど生きて、生きたい思いながら死んでゆく。なんの変哲もない、そんな人生になるんだと思ってたんだ。


そう思ってた、のに。



「…っ一樹、会長…?」


欲しいと思ってしまったのは、絶対に手に入らない"モノ"で。

窓の外からざわざわと風で揺れる木の音がする。季節はもうすぐ終わりを告げて、俺もこの学園からいなくなる。


「何だよ、そんな顔して」

「ど、どいてください…っ!」


ソファーに華奢な身体を倒して、腕の中に閉じ込めてしまえば、コイツが俺のものになるんじゃないかと勘違いしてしまいそうになるのは、いつもは強く何もかもを見抜いているような瞳が揺れてたから。

俺の様子がいつもと違う事に気付いたのか。

いつものような冗談じゃないことに気付いたのか。


「ここ…っ生徒会室ですよ、誰か来たら…!」

「俺は誰かに来て欲しいくらいだ。」

「っ」


驚いたように目を見開いたお前の唇を俺の唇で塞いだ。初めて感じる感触は柔らかくて、でも冷たくて。

俺の罪悪感を掻き立てた。


ずっとずっと、俺だけの為に笑っていて欲しかったんだ。

お前の幸せを願ってたはずなのに、俺の手を離れようとするお前を見ると、壊してでも俺のものにしたい衝動に駆られる。


「肩震えてる。俺が怖いか?」

「離して下さ…っこんなの、」

「…それでいいよ。怖がってくれていいから、俺のことだけ考えてくれ。今だけでいいから」


俺を押し上げようとする手を絡め取って、そのままソファーに縫いつける。

頬に唇を寄せようとすると、顔を背けて俺を拒もうとする。そんなコイツの首筋に少しだけ歯を立てて噛みつくと、抵抗しようと暴れる細い身体。





「っはやとく…っ!」



俺じゃない名前を呼ぶ、その声ごと奪った。

息をする間もないくらいに、コイツが俺以外の事を何も考えられなくなるように。激しく。


「んっ…ふぅ、んん…っ!」


今こうしてる間にも、お前の心は傷ついてるかもしれない。

でもそれを俺じゃなく、他の男に塞いでもらうんだろう。



「ごめん、ごめんな。」


愛してるのに、傷つける事しかできないなんて。



神様は皮肉だ。









(ルージュが遺した、遺言)
花梨さんリクエストありがとうございました^^