※直獅√ネタバレ




昔から"面倒見がいい"とか"優しい"とか言われることが多かった。

少しくすぐったいけど、大切な人達を守ったり面倒見たりするのは楽しかったし、嬉しくもあった。

最近はお母さんとまで言われるようになったし…そんなに過保護なのかな。


なるべく周りの人に気を配ってるつもりなんだけど、俺も勘違いすることがあるんだろうか…?

いつも元気に笑ってるアイツが悲しそうに見えたなんて。



「失礼しました。」


放課後。陽日先生に頼まれた雑用を片付けて職員室を出ると、ほとんどの生徒が寮に帰宅したせいか、校内は不気味なくらい静まりかえっていた。

窓の外を見るといつの間にか暗くなっていて、1日の早さを実感させた。

そろそろ帰らないと寮の門限に間に合わなくなる。そう思い廊下を歩いていると、見慣れた後ろ姿が視界の中に入った。


「あれ、月子?」


この学園で唯一の女の子。みんなにとっても俺にとっても大切なマドンナ的存在だ。

危ないからあれほど夜に一人で行動するなって言ったのに。


「あ、錫也」

「あ、じゃないだろ?どうしたんだこんな時間に一人で。生徒会か?」

「うん!少し手間取っちゃって。でもさっき終わったから今から帰るの。錫也も珍しいねこんな時間に」


俺の元にパタパタとやってきた月子はいつものように明るくて。

悲しそうだ、なんてやっぱり俺の勘違いだったんだろうか。


「?錫也、どうかした?」

「え?あぁ何でもないよ。俺も今から帰るところだから一緒に帰ろうか。送るよ」


いつもと変わらない他愛のない会話をしながら玄関へと向かって歩く。

俺の勘違いかもしれないなら無理に何かを聞くわけにもいかないし、かと言って月子は辛いことがあっても一人で抱えてしまうから放っておくわけにもいかない。

俺がもっと見ててあげないと。


「あ、東月!いたいた!」


ふと後ろから声をかけられて振り向くと職員室にいたはずの陽日先生がこっちに手を振りながら走って来る。

その時、横から腕をギュッと掴まれた。

少し驚いて月子を見ると、月子は唇を噛んで俯いていた。


「月子?どうか…」

「探したぞ東月!これ!さっき職員室に筆箱忘れていってたぞ!」


俺の言葉は陽日先生の声に遮られ、月子には届かなかった。

少し腕を揺すって様子を伺おうとしても一向に顔をあげようとしない。


「じゃあそろそろ寮の門限だからな早く帰るんだぞ!くれぐれも気をつけてな!…夜久もな」

「さよなら。ほら、月子も」


月子に挨拶をするように促してみても、俺の腕を掴んだままだ。

陽日先生はそんな月子を見て、何もかもを知ってるような顔をして切なそうに笑った。

そして何も言わない月子の頭を撫でて職員室に戻っていった。


「月子、」

「…」


本当は泣きそうな顔をしてる月子に何があったのか聞きたかったけど、月子の表情から想像するのは簡単だった。


前は陽日先生の手伝いばかりしていた月子が、急に手伝わなくなって、それどころか陽日先生と話すらしなくなった。

かと思えば遠くにいる陽日先生に熱い視線を送っては辛そうな顔をしていたり。



…そうか、そうだったんだな。



「もう頑張らなくていいよ」

「え…?」

「いっぱい頑張ったんだからもういいんだよ…泣けばいい」



彼女の大切な人が彼女を迎えに来るまで、俺はちゃんと傍にいるから。

お前が孤独や不安に押し潰されそうになって、立てなくなっても、絶対に支えてやるから。

だからそんなに頑張らなくても良いよ。

季節の流れは早いんだから、俺たちはゆっくり進んで行けばいい。



「……帰ろうか。」



いつか心から笑える日が来るまで、俺は何でもするよ。


彼女が幸せになるためならば。














(僕等は明日を待ってる)


直獅√のネタバレです。

未来の為に別れを決意した月子と直獅と、そのことに気付いてしまった錫也。

初錫也がまさか片思いの感じになるとは自分でも思ってなかったので書いてからアチャー/(^o^)\と思いました

しかし錫也の洞察力は怖い