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私の好きな男は極上に甘いマスクで、極上に優しい男だ。小さい時からずっとこの八木勇征だけを一途に想ってきた。

いつか勇征にこの気持ちを伝えなきゃ…そう思ってはいるものの、一向に勇気が出ないまま今日まできてしまった。

地元のF高に進学した私たち。高校に入ってすぐに幼馴染4人が学園内で有名になったのも、みんなそこそこ顔が良くて喧嘩が強いからで。今では馬鹿みたいにファンクラブまでできている、らしい。

元々素行のよくないここら界隈はF高とR高に別れていて、いわゆる絶交状態だった。なにかあればすぐに喧嘩で。いつ何時もそっちの区域に入る時は私たち学生は色々気をつけなきゃいけなかった。


「…澤くん、なんで唇赤いの?」


お昼休みから戻ってきた学年トップの頭脳の澤本夏輝のくちびるがいつも以上にぷるぷるしているのを目にして私はそんな質問を飛ばした。

澤くんは私から一瞬目を逸らした後、ニヤリと口端を緩ませた。それから勇征を見つめてまたニヤリと笑う。


「黎弥に食われた寧々の手作り唐揚げ奪い返したから?」


…なんだ、それ。チラリと勇征を見るとパッと私から目を逸らした。…むか。なによなによ。


「ちょっとよくわからな、」


グイッて急に澤くんの腕が私の首の後ろにかかる。コツっておデコがくっついて「こうやって食ったんだよ、唐揚げ。」あと数センチの所で勇征が私と澤くんを片手で離した。


「夏輝くん、勘弁して。」


そう加えて。勇征の片腕が私の背中に回っていて、距離がぐんと近づいたことに心拍数が一気に上昇する。


「ゆき乃、大丈夫?」


耳元を掠める勇征のハスキーな声にコクっと頷くとポンポンって頭を撫でた勇征の手がゆっくりと離れた。


「残念そうな顔だな、ゆき乃。」


そんな私にもう一人の夏喜こと、なっちゃんがその綺麗な顔を近づけて俯く私の顎をクイっと指であげた。目の前になっちゃんの顔でギョッとする私をもう一度勇征が引っ張る。今度こそ自分の背中に私を隠す勇征は、深々と溜息をついて「なっちゃんも、勘弁して。ゆき乃をからかうなよ。」勇征の大きな背中が小さくそう言った。



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