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「え、好き!?」
思わず声に出す私を見つめる北人は、やっぱり紅くて。
「うん、好き!なーんだバレてたのか。そ、俺好きだよ、ゆき乃が。八木よりもずっと、」
「それはねぇ。ガキん頃から俺はゆき乃一筋だ。北人みたいな薄っぺらい気持ちじゃねぇ。」
「ねぇ俺、喧嘩嫌いなの。けどさ、こいつマジムカつく!!陸さん殴ってもいい!?」
北人が勇征の目の前まで来ていて。でも勇征のが背が高いから北人の姿が私からは見えなくて。
「望むところだ。」
なんだかんだで、勇征も喧嘩は強いから戦闘態勢なんだけど、肝心なことが一つある。だから私は勇征の制服を引っ張った。
すぐに後ろを向く勇征は優しい顔で。
「勇征あのね、渡したいものがあるの。だからさ今からうちに来て。」
パアーって表情を変える勇征。
だって今日は勇征のお誕生日だもん。ちゃんとね、お弁当作ったの、本当は。
でも何時どこでこうやって邪魔が入るか分からなかったから家に置いてきた。勇征を今夜うちに招待するつもりだったのに、カラオケの後。
勇征の後ろから顔を出す私は真っ直ぐに黎弥を見る。
「黎弥、これ以上誰も私と勇征の邪魔させないでよ。」
「可愛い妹の頼みなら仕方ねぇ。夏喜!吉野の相手してやれ!」
そこにいたのか、すぐに部屋に入ってきたなっちゃんが指をポキポキ鳴らして笑った。
私はそのまま勇征の腕を掴んでタバコ臭いカラオケボックスから連れ出す。
なっちゃんと北人がどうなったのかは分からないけど、大事なのは私と勇征の気持ちで。
「せっかくのお誕生日なのに、ちょっと悔しいよ。」
そう言う私をぎゅうぎゅう勇征が抱きしめたんだ。
「ゆき乃に祝ってもらえるだけで嬉しいよ。」
部屋にあげた勇征の前、肉づくしのお弁当を出すと爆笑されて。
「俺の好み分かってるなぁ、マジで嬉しい。でもさ、」
グイッと腕を取られて勇征の前に座らさられる。コツっとおデコをつけて微笑む勇征がたまらなく好き。
「好きだよ、ゆき乃。」
「私も好き。」
目を閉じると勇征の匂いに包まれる。
もう一つの誕生日プレゼントが私だって黎弥にバレたらどうなるかは、今は考えない事にしよ。
ベッドの上で微笑む勇征をギュッと抱きしめたんだ――――――
「お誕生日おめでとう、勇征。」
*END*
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