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HR終了の礼が終わると慧人はチラっとあたしを見ると何とも複雑な半笑いで教室を走って出て行った。だから颯太が「なにしかけたん?」なんてあたしを見つめる。
「内緒。うまくいくように背中押して?」
チョコを手にしたあたしに、颯太が「行ってこい!」って背中を押してくれた。
そのまま勢いよくあたしも慧人に続いて屋上のドアを開けた。
風がぶわって通り過ぎて、目の前に慧人。
「ゆき乃ちゃん、あの、」
「うん。」
「俺、欲しいなーってずっと思ってて、ゆき乃ちゃんのチョコ。でもその、いいの?」
しどろもどろな慧人が可愛いくて仕方ない。
「慧人は嫌なの?」
「まさか!!俺はその、できればこっちからお願いしたいぐらいなんだけど、」
「じゃあいいよ。」
「う、うん。じゃあ、その…えーと…あ、目、目閉じて?」
言われるがままその場でそっと目を閉じると、至近距離で慧人がゴクッて生唾飲み込む音が聞こえた。次の瞬間、ふわりと慧人の手があたしの両肩に添えられて、ほんの一瞬掠る程度に慧人の唇が小さく触れた。
目を開けると真っ赤な顔で苦笑いの慧人。
「…き、緊張した。」
女みたいに目を潤ませて言うけどさ、待って待って今のはキスといえる触れ合いなの?
「チョコ、くれる?」
「嫌。」
「えっ!?どうして?…キスしたらあげる!って言ったのに、」
明らかに落ち込む慧人は可愛いけど、あたしが怒ってるのはそんな事じゃない。
「もっとちゃんとして、」
「え、なにを?」
「キス!そんなただ触れるだけのキスじゃやだ。」
黙り込む慧人にドキッとする。いつもヘラヘラしてるからたまにそうやって真剣な顔をされるとドキドキするわけで。
「え、待って。でもそーいうのは好き同士の恋人がするもので、俺たちはその、なんていうか…、」
「…じゃあ慧人の彼女にして、あたしのこと。そしたらキスできる?」
思いっきり目をかっぴろげる慧人が可愛いくてちょっとズルいんだ。
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