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「おはよーございます。」
月曜日。
新年早々同期の臣と隆二の腕を思いっきり掴む。
我が社きってのイケメン営業マン2人と同期の私は高嶺の花の中の雑草で、それでもこんな私と仲良くつるんでくれるのはこいつらぐらいだった。
「おう、今年もよろしく。」
「俺も、よろしくね。てかゆき乃、肌ツヤ良くない?さてはなんかあったなー?」
ニヤついた顔で隆二に言われて私は笑いそうな顔を崩さないように小さくコクコク頷いた。
「今夜あけて!お願い!」
パンって顔の前で手を合わせて懇願すると臣がクって鼻で笑った。隆二は「んじゃ俺店予約しとく!」なんていつものノリで私の頭を撫でたんだ。
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「えっ!?堀なつにっ!?」
「隆二声でかい!」
ガバって隆二の口元を手で押さえると「ごめんごめん、」なんて笑いながらそれでも余裕で私の手の平にちゅ、って小さなキスを落とした。まぁこんなのいつもの事だからスルーして。
「堀なつかぁ!で、どうだったの?」
あきらかに私と堀くんがセックスしたみたいな言い方なんだけど。取り急ぎ臣を一睨みしてから小さく「何もしてないから。」ボソッと呟いた。
「私からなんていけるわけないし、そもそもキスの仕方も忘れてる。」
チラリと目線は隆二。ビールをゴクリと飲んだ隆二は「ん?」と、ジョッキをテーブルに置いた。このミッションは臣じゃなくて隆二にしよう!と瞬時に思う。
「隆二あのね、キスして!」
さすがに隆二も目を大きく見開いて苦笑い。隣の臣はむしろ大爆笑。手を叩いて笑っている。
「え、ゆき乃?本気?」
「本気!だってこのままキスもできない女だって思われたくない!キスぐらいいつでもOKだって、思わせたい。」
「…できないゆき乃も可愛いとは思うけど、ゆき乃がいいならいくらでもしてあげるよ?」
諭す様な隆二の言い方。相変わらず優しさに溢れているって思う。答えが間違っているとしたらここで気づかなきゃダメだって。でも間違っちゃいない。
勇征とすらキスもできなかった。いや、しそうになったけど、でもダメ!って、なんでか身体が反応して。
単なる見栄でも何でもいい、大人の女を演出するには、キスから程遠い場所にいる自分の立ち位置があまりに不憫でならなかった。
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