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慌ててトイレに行って全身ファブリーズ。鏡の前で素早く化粧を直して息を整える。そのままお店を出て会社に戻る。
だだっ広いフロアにポツリと大きな背中が見えた。
「堀くん。」
カツっとヒール音が鳴ると堀くんが振り返ってこちらに近寄ってくる。
「本当に逢えた。」
ニカって白い歯を見せて笑ったその顔にやっぱりキュンとした。
数日前まではこのイケメンに騙されてるんじゃないか?って正直疑っていた気持ちなんて最早5ミリ程度しか残っておらず、この目の前で照れ笑いする彼を独り占めしたいなんて思っている。
長身の堀くんは黒いスマートなスーツを着こなしていて、セットされた髪に触れると目を大きく見開いた。
それが引き金で、一気に私達を纏う空気の色がピンクに変わったのが分かった。
「ゆき乃、さん…。」
「…ん、」
それ以上何も言わない堀くんが無言で顔を寄せてくる。容易に分かるキスの合図にクスッと笑った。
「なあに?」
わざとらしく首に腕をかけてそう聞くと目を泳がせて「え、あの…、」なんて動揺。たった今、キスの練習をした私はそれを実践したくてたまらないのを隠すのに精一杯で、ニヤける顔がバレないように堀くんの胸元にそっと頭をもたげた。
「…ゆき乃さんの事、誰にも渡したくない。」
ボソッと呟くと私をその身体全部に閉じ込める堀くん。独占欲強いの?それとも、私は特別?単純に可愛いなーって思って笑いながら胸元に頭を擦り付ける。
「今日1日ずっとゆき乃さんの事ばっか考えてて、自分でも重症…。このまま持って帰ってもいいですか?」
超絶ギャップな堀くん。堀くんファンが聞いたら失神するんじゃないかって台詞が繰り出される。キス一つ覚えただけで調子にのれる自分が笑っちゃうけれど、私を選んでいるのは堀くんの方で。
だから―――
「ダメ。家までなんて待てない、」
ほんの一瞬、え?って顔をした堀くんの首にふわりと腕をかけると、私の方からその綺麗な顔に近づいた。
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