「お、ナイスタイミング」
「へ?はぁ?え?何してんのお前」


玄関を開くとそこには今まさに家のチャイムを鳴らそうと指を伸ばす仁王が居た。鳴らす前にドアが開いたもんだから滅多にに見られない珍しいものが目の前に広がる。細い目を丸くさせてキョトンとした顔の仁王はなかなか貴重な物だが、仁王が驚くより何倍もこっちの方が驚いて目をまん丸くしただろう。だって何も連絡も無しに家の前に来られたら誰だって驚くものだ。
驚いた表情もつかの間、ナイスタイミングだと目を細めて笑う仁王にブン太はわざとため息を吐き掛けた。何を企んでいるのだろうか。ついつい身構えてしまうのはこの笑顔に裏がある事を知っているからだ。


「ブン太くんを遊び誘いに来たんじゃ」
「俺今から出掛けるんだけど」
「どこ行くん?」
「アイス買いにコンビニ」
「このくそ寒い中アイス?」
「こたつで食うの!」
「奢ったげるからちょっと一緒に出掛けんか?」
「おーいいぜ。ダッツなダッツ」
「ダッツはあかん。スーパーカップ!」


上手い口車に乗せられた気もしなくもないが、お目当てのアイスを買ってくれると向こうから言い出したのだ、それに乗らないなんてもったいない事はしない。それに少し身体も鈍っていた所だ。少し身体を動かすのには散歩が丁度よい。
どこに行くのか目的地を聞かずに承諾してしまったが、きっと本当にちょっとだけ付き合ってほしいだけなのだろう。寒さも嫌いな相手がわざわざ出歩くのだ、長時間は付き合わされまい。長時間にもなればギブアップするのは絶対に仁王の方が先なのだから。


「んで、どこ行くの?」
「近くの神社」
「は?何しに?」
「初詣」
「まだクリスマス終わって4日しか経ってないんだけど?」
「年明けまで後2日じゃな」
「まだ年明けてねぇってわかってんのに初詣とかバカじゃない?」
「じゃあラスト詣」
「意味わかんねぇ」


息を真っ白にさせ、心なしか楽しそうな表情の仁王を見ていると、意味がわからなくても仕方ないって自然と思えてしまう。マフラーはもちろんの事、暖かそうな帽子にイヤーマフまでして防寒対策はバッチリの格好を見るとそこまでして外出なんてしなければいいのではないか、と口に出してしまいそうになった。けど、そこまでして会いに来てくれたと言う事実にブン太の口角は自然と上向く。
意味がわからないと言われるのは見越していたのだろう、仁王はそのまま目的地に向かって歩き始めた。着いて行くしか選択肢がない事に少し不満を感じたが、アイスのためだと隣に並んで寒空の下を歩き出す。


「俺明日から4日までじいちゃん家行くんよ」
「じいちゃん家?」
「うん、四国」
「マジか!お土産シクヨロ!ご当地キューピー買って来て!」
「食いもんやなくてええん?」
「は?俺に食い物のお土産渡さないってどういう神経してんの」
「どういう神経してんのか聞きたいんはこっちじゃがな」


笑う度に白い息が空に向かって消えていくのを目だけで追う。視線は合わない。隣に並んで歩いているのだから当たり前なのだが、それだけの事が何だか幸せに思えてしまうのは、きっと隣を歩くのが仁王だからだろう。合わせてくれているのかはわからないが、歩調が自然と合うのも、きっとこれが仁王だから。


「5日から部活始まるし、初詣一緒に行けんじゃろ?」
「別に部活終わってからでもよくね?」
「人込み嫌じゃ」
「10日くらいになればがらがらだって」
「……………………」
「……たーく、わかったからそんな顔すんなっての」


防寒具に埋もれて隠れた仁王の表情は普段よりも分かりにくい。立ち止まり黙り込んだ仁王の顔なんてチラッとしか見てないが、あからさまに不貞腐れている顔になっている事は間違いない。正解確認をするように振り返り仁王に一歩、二歩と近づき顔を覗き込めば案の定細い目を更に細くさせていた。
仕方ない、とまた軽いため息を吐き出して再び歩みを進める。真っ直ぐ歩いて行けばあっという間に神社にたどり着いてしまうから、ほんの少しだけ、ゆっくりと。















「満足した?」
「おみくじが小吉以外は」
「いいじゃん、今年も残り少ねぇんだから。んで?何をお願いしたわけ?」
「勿論、ブン太がこれ以上太りませんようにーって」
「神様にんな事願わなくても太らねぇよばーか!!」


正月の準備が進んでいる神社に来客は少ない。少ないと言うよりも犬の散歩に使っている人くらいしか見当たらない。本堂にお参りをし、無人のおみくじ売り場でおみくじを引く仁王がいつもよりなんだかシュールでつい一人で笑ってしまう。あまり納得のいかない結果が書いてあったおみくじを木に巻き付ければあっという間にラスト詣とやらが終了してしまった。
日が沈むのは早いが、夕方の空は赤く色付きとても綺麗な夕暮れだ。夜と共に寒さを運んできてしまうため第二の目的地であるコンビニへと向かう事にしたが、その足取りも寒さに関わらずいつもよりもゆっくりしたペースだった。


「こういうんは言ったら叶わなくなるじゃろ?だから言わん」
「えーつまんねぇじゃん、言えよ」
「嫌じゃ」
「そんな切実な願いなの?」
「さぁ?どうかのう?」


やたらと真剣な顔付きでお参りをしていたため、詐欺師と言われるこの男が神に何を祈ったのかはとても気になる話題だった。そう簡単に教えて貰えるはずもなく、予想通り上手くかわされてしまう。気になる気持ちも大きいが、何となく同じ事を祈ったのではないか、と勘繰って真っ直ぐな視線を仁王に向ける。その視線に気付いた仁王はほんの少しだけ歯を見せて微笑んだ。


「おい仁王」
「ん?」
「来年はちゃんと初詣に来ような?」
「……人混み嫌いナリ」
「じゃあお前だけ誘わない」
「それも嫌じゃ」
「あ〜面倒くせぇ奴!!」






ラスト詣
(ずっとなんて曖昧な言葉を使いたくはないけども)(来年も、その次の年も、その先も)(ずっと、一緒に居られますように)










改めまして、楓さん誕生日おめでとうございます〜!!

毎年私の誕生日を祝っていただいてるのに何も返せずに本当に申し訳ないです。本当にありがとうございます!!

時間もあんまり取れずに急いで仕上げたので誤字脱字等あったらごめんなさい……


楓さん仁王受けも好きなのでちょっとだけ仁王を受けっぽくしようと意識はしましたが果たして私の文才でそこまで表現できているのか。とりあえず楓さんが気に入って下さると幸いです。よかったら受け取ってやって下さい!!


楓さんの新しい一年が素敵な年になりますように!!!
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