First Contact

困った。
学校の敷地内に入ってものの5秒。さっそく困った。どこに行けばいいのか分からない。

01


というか思ってた以上に広すぎ。東京やばい。
校舎はたくさんあるしグラウンドもたくさんあるしどこから入るのが正解かわからない。なぜ集合場所を把握してこなかったのか、というか書類持って来ればよかったのに…これはリビングに忘れてきたなわたし…。
とりあえず職員室を目指せばいいか。
そう思って歩き始めたが、またはるこはすぐに止まった。

「いや、だから職員室の場所分かんないんだった…」

なんせ広い学校である。キョロキョロ周りを見渡してみたが聞きやすそうな生徒がいない。ついでに案内板的なものも見当たらない。わからん。どうしよ。

はあ、とため息をついてお母さんに電話でもしようと鞄から携帯を取り出そうとしたところで、
「自分、何してはるん?」
そう声をかけられた。
焦っていたのと慌てていたのと驚いたのが全部一緒になって、思わず「何語?!」って返してしまった。わたしバカか。振り向いた先に居たこう言う人世間一般的にはイケメンって言うんだろうな〜って感じのオニーサンは、一瞬ポカンとしてたけどそのあと大爆笑しはじめた。
「自分、何語って…日本語に決まっとるやん。あえて言うなら関西弁や」
笑い過ぎて涙が出てきたらしい丸メガネのオニーサンは指で涙をぬぐった。はるこはさすがに少し恥ずかしくなって俯いた。ってかそんな眼鏡久々に見ましたオニーサン。センスもう一周してますやん。

「あ、堪忍な。ついわろてもたわ」

ついで済ませるなよ、オニーサン。わたし恥ずかしねん。男子中学生が授業中先生のこと「お母さん!」って呼ぶくらい恥ずかしねん。いや、そっちの方がもっと恥ずかしいか。すまん、先生のことお母さんって呼んでしまったことのある全国の男子中学生。謝る。
「で?どないしたん?なんかお困りみたいやけども」
「あー…」
恥ずかしいけどこの際人は選んでられないよね。
「あの、職員室ってどこですか?」
「職員室?講堂やのーて?」
「え、講堂行った方がいいですか?」
「え、入学式は講堂やろ?」
「…え?」

この人、なんか勘違いしてない?
それはそのオニーサンも気付いたようで。

「…自分1年生ちゃうん?」
「ちゃいますけど」
「…ほな、何年生?」
「…3年生ですわ。ってか入学式は明日ですよね?」
オニーサンは首をかしげた。
「入学式はまあエエとして。なんで自分3年生にもなって職員室の場所知らへんの?」
「今日初めて来たからに決まってるやないですか」
「なんで?」
「転校してきたからに決まってるやないですか」
オニーサンはこぶしをポンと、して「なるほど」って呟いた。ってかそんなことリアルにする人初めてみた。丸メガネにしろオニーサンはなんかちょっと変わってるのね。
「俺も3年生やで」
「ああ、そうですか…」
「せやから敬語はいらんっちゅー話や」
「あー、ハイハイ。で、職員室は?」
「急に冷たいやっちゃな。ま、ええわ。職員室はここずっとまっすぐ行った先に見える校舎の2階の北側やで」
そういってオニーサンは少し先に見える校舎を指さした。時間、間に合うかなあ。

「ありがと、オニーサン。助かりました」
「忍足侑士や」
「…へ?」
「せやから、忍足侑士。俺の名前」
「ああ、そう」

はるこは相槌だけ打つと校舎へ向かって歩いて行った。
…正確には行きたかったが忍足に腕を掴まれ食い止められた。

「なに忍足くん。わたし急いでるんだけど」
「普通、相手が名乗ったら自分も名乗るやろ!なんでそんな冷たいん?なあ、」

こいつ…うざい…
わたしが急いでること感じ取ってる?いや、絶対わかってない。

「高橋はるこです、これで満足ですか」
「はるこちゃんか、可愛い名前やなあ」
「じゃあもう行くから手、離して忍足くん」
「クン付けやせんでも…侑士でええで、はるこちゃん!」
「あっそ、じゃあ高橋でいいわよ、忍足」
「ほな高橋…って新密度下がっとるやないか!」

びしっとノリ突っ込みを決めたところで沈黙が流れた。

「じゃ、急いでるんで」
そういってはるこはヒラヒラと片手を振りながら校舎に向かって足早に歩いて行った。
「…高橋、はるこ…言うたか、ノリツッコミを振ってこれるやなんて…できる!!!」

忍足はしばらくはるこの後ろ姿を見ていたがふと自分も職員室に用事があったことを思い出して慌てて後を追いかけた。

「待ってや、はるこちゃーーん!」
「だから高橋で良いってば!!」

*
眼鏡と出会った春。


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