Something has started

バタンと扉が開く音がしてそろそろUNOに飽きた3年ズが一斉に扉の方を見た。そこには先程よりすっきりした顔のはるこがいて、忍足達はほっとした。
「ただいまはるこちゃん帰りましたー!」
「おせーぞ、高橋!」
「ごめんて宍戸くん。けどそんな怒らなくたっていいじゃん」
宍戸はフンと顔を反らし長太郎はハハ、と苦笑いした。

25


「で、はるこちゃん。すっきりした顔しとるやん」
「うん、すっきりした、かな。多分、いやきっと」
「それだったらええねん」
はるこは忍足ににこっと頷いた後相変わらず偉そうに座っている跡部に向かった。
「あとべくん」
「なんだ」
「なんかこれはもう直で言うしかないって思ったから一回しか言わないけど…」
はるこはそこまで言うとふっと跡部から視線をそらした。何度かチラチラ跡部を見てまた視線をそらし深呼吸をする。気付けば耳は真っ赤だった。

こいつ…何してんだ。
けど、なんだか、可愛いな。

跡部は妙なはるこの動きを少し楽しみながら、じっと見ていた。はるこもやっと決心がついたのか跡部の方をきちんと向くと小さく息を吐いた。そしてその口を開いた。
「好きとかそういうのはまだわかんないけど、わたし、頑張ってあとべくんに似合う彼女に、なろうと、思う」
言い終わるか終わらぬかのところでくるっと跡部に背を向けるはるこ。しかし背を向けたところで岳人と目が合い、気まずくなり誰とも目が合わないところに身体を向けた。心臓がばくばくなってるのがよくわかる。その瞬間、後ろから驚くほどの優しさで跡部に抱きしめられた。
はるこは驚いた。

今まで何回か女の子とハグしたことはあったから抱きしめるってそういう感じだと思ってた。わーきゃー言って仲良くぎゅっぎゅ。

けど違う。

あとべくんは男の子だから体もおっきくて。おっきいからどことなく安心感もあって。思いっきり抱きしめられてるのに痛いどころかすごく優しくて心地よくて。心臓がさっきよりもっとドキドキしてて。このドキドキが伝わっちゃいそうでほんとに怖くて。嬉しくて。
あれ?わたしこんなにも跡部くんのこと好きだったかな?そんなはずじゃ無かった。これは気のせい、気の迷い。そのはずなのに。出会ってまだ1週間とかなんだよ?なのになんで?
抱きしめられただけで、こんなに好きになっちゃうものなの?

「あとべ、くん…?」
「はるこ、」

気付けば初めて呼ばれた名前だった。

今までお前だのおいだの呼ばれてきた名前をしっかり自分の名前だって思ってしまったら。その言葉たちが全て自分に向けて言われていることに気づいてしまったら。自分の中でようやく何かが始まった気がした。
でも、それをどうしても認めたくなくって、もう少しでいいからいじっぱりでいたかった。
「あーあーあーあー、もうやだー」
はるこは色々なことがこんがらがって気付けばふと目からあふれ出るものがあった。
「おい高橋大丈夫かよ」
岳人に言われ、違和感に気付いた跡部は泣いているはるこを見てぎょっとしてふと力を緩めた。はるこは身が自由になった瞬間ダッと駆け出してその場で一番大きかった樺地の後ろへそっと隠れた。なんで、わたしっ、泣いてる?!
「はるこ…「来ないで!!!」
今、あとべに、近くに来られたら、わたし…
今すごく自分じゃ無いみたいですっごく怖い。
「はるこーどうしたの?」
さきほどの声にさすがに目を覚ました慈郎が目をこすりながら尋ねる。
忍足がひょいとはるこを覗きこんだ。そこには泣きつつも顔を真っ赤にしたはるこがいた。
「…、はるこちゃん、照れとん?」
「忍足今は黙ってえ…」
あ、なーんだ。そんな空気でいっぱいになる。跡部も満足した顔に戻る。ただ一人状況を読みこめない慈郎だけがひたすらにはるこの心配をする。
「はるこ、誰かに泣かされたの?」
「そうなんだよ、助けてジローくん」
「はるこ泣かすなんてマジマジ許さないC!」
慈郎が跡部の方をキッと見た瞬間だった。
「あー!UNO!」
「え、UNO?」
ころっと態度が180度変わったはるこはUNOを見つけて慈郎と2人でそのUNOを再び開けた。
「ねえUNOしようよ!UNO!」
ニコニコとカードを配るはるこを見て、周りはひとまず安心し、そしてカードを取った。
「絶対負けない!!」

*
100の言葉より1の行動
Something has started=何かが始まった


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