It is just that all I wanted you to do was listen

「おい、あいつらまだなのかよ」
一番初めにしびれを切らしたのは跡部では無く宍戸だった。
「1時間は経つな」
「どんだけ文句があるんだ?」
「女の愚痴は長いんやで、宍戸」
それにしても一体いつまで?

24


時は1時間前に遡る。

「それじゃあ聞いてくれますか」
はるこの言葉に長太郎と樺地はこくりと頷いた。
「まあ、もちろん、ご察しの通りあとべちゃんのことなんだけどさ」
「そうですよねえ」
「そうだよねえ、それ以外ないよねえ」
はるこは「はあ」とため息をつく。
「先日関係を迫られたわけなんだけども断った後にふと思ったことがあってね」
「?」
「なんだかんだで付き合ってることになってるんだけどあの…その、」
「?」
どうも歯切れが悪い。
少し首をかしげながら聞いているとはるこはポソポソ小さな声で続けた。
「あとべちゃんは、わたしの、身体、目的なのかな?…って」
ああ、
長太郎はなるべく態度に出ないようにはるこの話を冷静に聞く体制を整えた。
「でもそんな身体言ってもわたしはそんなつもり無いしまして魅力があるとも思わないし…なんであとべちゃんはわたしなんだろうね」
「それを気にしてたんですか?」
「気にする、よ」
はるこはソファーに深く腰かけなおした。
「やっぱね、わたしみたいな普通の女の子は思っちゃうわけよ。どうしてわたしなの?って。あとべちゃん、性格はアレかもしれないけど顔はすごく良いでしょ。運動神経とかも良いんでしょ。めちゃめちゃもてるでしょ?わたしさ、どうしてもその辺の人と変わんないから不釣り合いなのすごく気にしちゃうんだ」
はるこの口からは何度目かわからないため息がでた。
「不釣り合い?」
「鳳くんはまたお世辞を言ってくれるかもしれないけど、やっぱわたしとあとべちゃんが街を歩いてたら言われると思うんだ。『なんで彼氏あんなにかっこいいのに彼女あのレベルなの?』『彼氏もっと選択肢あるでしょ』『不釣り合いな癖によく隣歩けるね』ってさ…」
「……」
「はーあ、わたしがもっと可愛かったら…それかあとべちゃんがもっと普通だったらこんなに悩まないのかな。ほんと、それだけが、ね」
一番引っかかってるんだ、という言葉ははるこが口にしなくとも2人には十分に伝わっていた。
「俺は高橋先輩のこと、可愛いと思いますよ?」
「そんなことないよ…」
「俺、高橋先輩見てると元気になるんです。そういう明るさ、他の人には無い可愛さだと思うんですけど…」
爽やかイケメン代表、長太郎にそんなこと言われるとお世辞だと分かってもさすがに顔だって赤くなる。はるこの耳も頬もほんのり赤く染まっていた。
「はっ、恥ずかしいよ!鳳くん!」
「そうやって感情出せるところも先輩の良い所だと俺は思うんですけどね…な、樺地」
「ウス」
「か、樺地くんまで…」
すっかり縮こまってしまったはるこ。長太郎は優しく微笑む。
「高橋先輩は跡部先輩にお似合いだって、俺は思います。この1週間見てて…ほんとに」
「うそお…」
「跡部さん、楽しそう…です」
「樺地くんがわざわざ言葉で伝えてくれるなんて…ほんとにそうなの?」
「嘘ついてどうするんですか、だよなあ」
「ウス」
「それに跡部先輩はまだちゃんとした恋愛をしたことがないんだって、忍足先輩言ってました。だから付き合い方ってのを知らないんですよ」
「…、あのあとべが?」
「そうですよ、あの跡部先輩が、ですよ?だからそんなに心配することは無いと思いますけど」
「そうかなあ…」
「それにそうやって心配してるってことは前よりもやっぱり彼女って自覚があるからなんじゃないですか?」
「!」
それは、そうかも、しれない。昨日今日でずっと考えてたこと。やっぱ分かる人には分かっちゃうか。
「ってなんか生意気なこと言っててすみません!」
「あ、いいのいいの!むしろ言ってくれてありがとう。ほんとごめんねこんなことさせて」
「相談乗るって言いましたから。もしも万が一誰かに似合わないって言われることがあったらすぐに言ってください!そんなこと否定しますから!」
「はあ、ほんと鳳くん、良い人…」
くーっと背伸びするとはるこはソファーに座らず寝ころんだ。
「疲れてるんじゃないですか?」
「うーん、そうかもしれない」
「少し寝たらどうですか?ちょっとしたら俺、起こしますし」
「ほんとに?じゃあそうしようかな…あ、あともうひとつだけわがまま言っていい?」
「なんですか?」
「鳳くんに相談するのはこれで最後にするけど…愚痴はまた聞いてね」
長太郎は一瞬キョトンとするものの大きな声で笑った。
「どうぞ、高橋先輩がすっきりするまでちゃんと聞きますよ」
「ほんと鳳くんは良い子だ…その細胞が少しでもあとべいに行ってたら良かったのにね…」
長太郎は苦笑いした。はるこは「じゃあおやすみ」とだけ告げると浅い眠りについた。

「なあ樺地」
「?」
「高橋先輩、なんだかんだで跡部先輩にお似合いの彼女になろうと必死だよな。そんなに必死にならなくても十分なのに…」
「ウス」
「やっぱり樺地もそう思うよなあ…」
はるこの寝顔を見て長太郎はにこっと微笑んだ。
「ほんとは相談というよりはもう自分の中ですでに答えは決まっていて。だからそれを誰かに話を聞いてほしいんだろうね」
「ウス」
「きっと高橋先輩がもう少しだけ素直になるともう少しスムーズに物事が進むと思うんだけど…樺地は?」
「…ウス」
「やっぱり、な」
長太郎は気まずそうに笑った。

*

It is just that all I wanted you to do was listen=ただ聞いて欲しかった


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