さて、どうしたものか。
今の状況は見知らぬ男子に激しいキスをされている。ティーン漫画によくある光景だと思う。

しかし私は彼を知らない、というわけではない。何故なら相手は最近親しくなった平和島とセットで有名な折原臨也だからである。

一部女子から黄色い声で騒がれているが、ひとたび平和島と顔を合わせればそこは戦場と化し、一部女子以外からこの組み合わせは地獄の門と同レベルだと言われている。
流石、平和島と対等にやり合っているだけあって、両手を抑える力はちょっとやそっとじゃ振り切れない程に強い。




「ん………う…」




それにしても折原臨也はそれはそれは綺麗な顔をしていらっしゃる。艶やかな黒髪や端正な顔立ちは見る女性全てを引き付けるような魅力を醸し出している。
案外悪くないかも……という不謹慎な思いを頭から追いやり、今の状態から脱出する方法を考えてみた。

反撃出来る両手は既に無力。腰の上に跨がられているため足技は不可能。顔を動かす手もあったが、一足先に後頭部をもう片方の手でガシリと掴まれてしまった。


折原臨也はまだ物足りないのか私の頭を自分により近づけるようにして抱え込む。お陰で舌は完全に咥内に入り込んで逃げる私の舌を搦め捕られた。
ホントのホントにやばい。いくら格好良いからって、物事には順序とやってはいけない事ぐらいあるのだ。


そう思うと人間は本能と持てるあまりの頭脳を使うらしく、私は頭を押さえ付られる力を利用して近距離ながら頭突きをしかけた。威力は小さいものの、重ねられていた口を引き剥がすのと折原臨也に僅かな隙を作らせるには十分だった。

離れた口から透明な液体が糸を紡ぐが見なかったことにし、続いて頭上の手を支えに勢いを付けながら上体を起こす。


しかし折原臨也が頭から転がり落ちていく様を見た直後、大人しかった頭痛が遠心力により重力がかかった為、自分自身に牙をむいた。





「痛……たぁ…動くんじゃなか……った」




頭を抱えても遅く、唸る鈍痛に耐えているとベッドの下からひょっこりと折原臨也が顔をだした。




「それが最初に言う台詞?」

「じゃあ、聞きますけど……あれが初対面に………する行為…ですか?……痛い、マジ頭痛悪化した」
「あはは、息切れ激しいね」

「そりゃぁ……あんな…なが、くされたら…鼻で、息………しても苦しくなるわ…」

「へぇ、シズちゃんと仲良いし馬鹿かと思ったらそういう知識はあるんだね。まさかそれだけとか?」

「シズちゃん……あぁ平和島のこと」

「俺の名前知ってるんだ」

「そりゃ君達は有名人だもの」





そこまで言うと折原はにこりと笑みを零す。本当、イケメンだと思う。
感嘆の息を漏らさないように我慢している私の正面に胡座をかいた折原は流石に私を再び同じ目に合わせるつもりはないらしく、今度はふわわぁと呑気に欠伸を出した。





「それよりもさ……神村さんは怒らないの?さっきのこと」

「いや、怒りたいよ。けど、どうしたの?その傷」


折原の首筋にあるあからさまな痣が実はキスが終わってから気になっていて。思わずベッドから降りて棚の中の湿布を一枚引っ張り出して、首に無理矢理貼付ける。
げ、お陰で頭痛が増したじゃないか。





「あはは、神村さんって変わってるね」

「私は至って普通で平凡な人間です。平和島と同じ事を言うんだね折原は」

「シズちゃんと同じって気分悪いけど、そうだなぁ」





顎に手を当てて考え込む折原の眼がすっと細くなる。
すると私の心臓はどきりという音を出した。決してそれはときめきから来るものではなく、まるで嫌な不安を感じさせる警鐘のようなもの。
枕の上に座ったせいか、折原と目線がぴったり重なる何とも奇妙な体制の中で彼は、今まで何度も見てきた筈なのに始めて見るタイプの笑みを私に向ける。





「俺が神村伊織と言う名前を記憶している時点で君は異質なんだよね」


瞳が、揺らめいた。










初見にしては随分と酷い有様でした




(そういや、どうして私の名前を知ってるの?)(今更気付いたよこの子)(……)







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