「門田、古典のノート貸してくれない?」

「いいぜ。ほら」

「ありがと。門田のノートって丁寧で綺麗だから好きなんだ」

「褒めたって何も出ねぇぞ」

「ノートだけで十分」





隣にサンキューと手を振って二つのノートを机に出した所でふと、さっきの休み時間を思い出す。





「門田、折原臨也って男子知ってる?」

「あぁ、それなりに関わりがあるな」

「じゃあじゃあ、平和島静雄や岸谷新羅も」

「それなりに……な」





そう言って正面を向いて昼寝を決め込んだ門田に私は目を白黒させた。最近増えた男友達が変人だらけで、同じクラスで隣の席の門田は唯一平穏というか普通で安心していたのにまさか、こんな所に繋がりがあったなんて。なんて世界は狭いんだろう。
いや、学校内だから当たり前か。




「で、それがどうしたんだ?」



ぶっきらぼうに返事をしつつも、どうやら私の質問が気になったみたいで、寝ぼけ眼で尋ねる門田(ちょっと可愛い)
対する私はというとシャーペンとカラーボールペンと水性ペンを駆使してカラフルでわかりやすいノートに仕上げる真っ最中。

うーん、と真下と睨めっこしながらそれとなく口にしてみる。





「私って…変わってる?」

「普通っちゃあ普通だが、なんかズレてるっつってもおかしくないよなお前」

「結局どっちよ」

「臨也になんか言われたのか」



ベキッ。
力みすぎてシャーペンの芯が欠けた。その音を聞いて図星か、と門田の笑い声。





「神村の話よくするんだよ。臨也の奴」

「ななな何で折原が私の話なんかを」

「さあな」

「そこは無関心ですか」

「無関心つーか……神村って普通が好きなんだな」

「普通がいい。普通ラブ」

「普通なんて人それぞれだと思うがな。他人に聞かずとも、自分の思い次第でいくらでも変わる」





言ってる台詞はなんかクサいけど、色々と考えていた私の頭にそれは思っていたよりは脳内へスムーズと入り込んでくる。



「門田って良いこと言う「神村さーん、今が数学の授業だとわかっての内職?いい度胸ですねぇ」










♀♂


「ちょっと伊織、教室の鍵閉めちゃうよー」

「わたしがやっとくから平気」

「じゃ、お願いね」




私以外誰もいない教室、と思ったらまだ一人いた。教室の扉にもたれて半ば呆れ気味に私を眺めている。






「……何やってんだ」

「数学のプリント。内職バレたのに門田の昼寝がバレないって理不尽過ぎだよ」




ぺらぺらと紙一枚をはためかせてみる。門田はふらりと私の席の前までやってきて座った。



「…………見せてみろ」

「……………」

「…………………真っ白だな」

「……………手伝ってください」


ハッキリ宣言しよう。
私は数学が苦手だ。














♀♂


そんなこんなで数学の障害をようやく乗り越えた私は門田と一緒に帰る事になった。



「いやぁ、ルート付けんの忘れてたら全部解らなくて当たり前だったね」

「神村、成績大丈夫か?」

「頑張って生き残る!」

ガッツポーズしてみせると、門田の心配顔が更に深くなった。
あれ…そんなつもりはなかったんだけど。




「どしたの?」

「いや。ただ、別の意味でお前は普通だなと」



その言葉に持っていた鞄をばたりと落とす。今、門田は何て言った?




「普通って………私が!?」

「あ、あぁ」



念を押してもう一度尋ねてみればそれは間違っていなかったらしく、門田は頷いた。





「門田ありがとう!大好きだぁ」

「おい。ち、ちょっと待て…っ」



嬉しさの余り、右腕にガバッと抱き着けば代わりに門田はピキーンと直立して動かなくなってしまった。






「……全身つった?」

「んなわけあるか」




頭をくしゃくしゃに撫でられ、乱れた髪型を直すために両手を上げた所で門田は私から十分な距離を取っていた。
それが可笑しくて思わず吹き出す。





「ぷっ、あははは」

「今の流れで笑う所あったか?」

「ううん、ないない。」



ただ、こんな日々がずっと続いてくれればなって思うんだ。笑ったまま言うと、門田の眉間に少しだけ皺が寄る。




「臨也にちょっかい出されてもか?」

「うーん…しょうがない。折原も私の日常に入れてやるか。勿論、門田や静雄は大歓迎だよ」


「静雄とも繋がりあるのかお前」

「なんやかんやで」



続けてにっと笑えば、門田は額に手を当てて溜息をゆっくりと吐いた。見えた表情は酷く疲れていそうで、しかし僅かに彼にも同じ笑みが混じっていた。





「やっぱ、変わってるわ」

「またそう言って……」





夕日が私達を照らし出す。
時間が長く感じられて、こんな思いっ切り笑える日々がずっとずっと。
まるで永遠の箱庭に閉じ込められたような、そんな気持ちで私は日常を生きていきたい。




例え

私達が大人になってもだよ。









ひたすら傍観者





(思えばあの頃の時間が1番心地好かった)
(思えばあの頃の昼休みが1番笑っていた)
(思えばあの頃のサボりが1番楽しめていた)
(思えばあの頃の授業が1番昼寝をしていた)
(思えばあの頃の放課後が1番奇人変人大集合だったかもね、セルティ)







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