それが日常と言うのは少しおかしかった。

けれども日常を脱した者に出会った瞬間から昔のそれは確実に日常だったと言えるのだ。





「Let's party!!!」


掛け声と共に巻き上がる粉塵と、人、人、人。
埃と同じ扱いのように雑兵共は宙に舞う。
ただ、重さばかりは違って最高点まで上がった体は行きよりも明らかに早い速度で落下する。

地面と直接ぶつかる鎧の音。
何処かの骨が砕けた音。

断末魔のような音。


雑兵が織り成す音はやはり雑兵らしく芸がなく、美しさのかけらもない。



無様な音もあれば幾多の音に混じらず、筋の通った心地好い旋律だってきっとある。

私は今日も探しているのだ。














奥州筆頭伊達政宗は得意の六爪で仕上げと言わんばかりに敵軍の殲滅にかかっていた。
後方は小十郎が護りを固めてくれている。
自分はただただ無心に目の前の敵を斬りつけ、薙ぎ払い、次の敵へと標的を移す。万が一生き残ったとしても、小十郎が始末してくれる。


こんな雑魚らに興味はない。目指すは足軽に囲まれた更なる強き武将。

だから、こんな所で手こずるわけには行かないのだ。





「war dance!!」

「まあ綺麗な舞だこと」


例え、振り上げた刀を止められたとしても。

いつものように、だが容赦のない攻撃だったはずだ。


「………」

「政宗様っ!!!」

「Don't worry 小十郎!」

「あら、他人の心配をしていられるの?」

「テメェ…解るのか」

「Yes of course」


付け焼き刃ではない流暢な英語を口から零す兵は、その位に合わない力で六爪をたった一本の刀で対応している。
明らかに雑兵ではなかった。


「Shit!」


一度刀を押し退け、体勢を整えてから再び六爪を手にして兵に襲い掛かる。


「汚い言葉は品性に欠けますよ」


不意打ちではない正面きっての攻撃にもかかわらず、その兵はまたもや刀一本で受け止め、更には上へ払って無防備にさらけ出された政宗の頭上へ無情に刀を振りかざす。

絶体絶命の危機に小十郎は叫び声を出しそうになるが宙に放り出された政宗の表情を見た瞬間、動きを止めた。


兵も異変に気付いたのか、掲げた刀を下げようと目線を降ろすが一足遅い。


兵が防いだ刀の本数は三本。政宗の左手にはまだ残りの三本が握りられているのだ。

下からの突き上げのような攻撃は兵の胴体を切り刻む。

しかし、負けじと重力を以ってした上からの攻撃は素早く政宗の肩にめり込む。


お互い、痛みに歪んだ表情が鏡のようになり、そして倒れた。



「政宗様っ!!」

今度こそ響いた小十郎の声に、政宗は片手を上げて安否を示す。勿論、斬られていない側の肩を使って。



「テメェ…わざと右側斬りやがったな」


怨みの篭った小十郎の視線に怪我をしたとは思えない扱いで脇腹をぽんぽんと叩く兵はへらり笑う。


「Handyがあるのが戦でしょう?Fairplayは両目揃えてからに、」

「ざけんじゃねえ!」


容赦ない下から振り上げた小十郎の剣圧が兵の傘の端をふわりと浮かせた。
見えた顔立ちに小十郎は息を呑み、政宗はニヤリと笑う。


「…………戦場に、しかも雑兵の女たぁ笑えないJokeだな」

「口調でもうお分かりになっていたでしょうに。独眼竜さん」

「ほう、名前を知った上での挑発か」


小十郎の存在にも全く動揺しないことに感心しつつ、政宗は再び刀を構える。

だが彼女はそうしなかった。あろう事か政宗達に背を向け、周りに転がった事切れている同僚の端に歩み寄る。


「あなたなら、独眼竜なら私に聞かせてくれるかもしれない。こんな雑魚とは違う立派な最期の音を」


「仲間だった奴をけなす糞野郎に気に入られても困るなぁ、You see?」


「I see…でもごめんなさい。私は貴方に着いていく事に決めたから」



骸の手に握られていた刀を手に取った彼女の見てくれは二刀流のようだが初めてらしく構えは何処か違和感がある。

それでも今迄のやり取りを見て隙あらばと機会を伺っていた政宗の敵であり、彼女の味方に刃を向ける人数は一人多い。



「まずは、雑用係から始めるとするわ」

「今すぐ斬り付けてやりたい所だが、こっちがさきだな」

「独眼竜の右と背中は竜の右目さんに任せるわ」
「……………。」

「小十郎、気持ちはわかるがコイツをやるのは俺だ」

「…承知」





踏めば虫でも向かってくる






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