※トリップ主です
















「これを見てくだされ!!」

「なんですか?」

「某、折り紙に挑戦してみたでござる」

「かえ…る?」




縁側で茶を楽しんでいた私に駆け寄ってきた幸村の手にあるのは少し折れたりしてる不格好な蛙。ぎりぎり合格ライン、というところか。




「正解でござる。して、出来栄えは…?」

「初めてにしてはよくできてます。でももう少し練習が必要かと」

「うおおぉお!!!この幸村、全力で折り紙に専念する所存、お館様あぁあああっっ!!!!」

「はいはい。そのお館様から呼び出しがかかってるよ、旦那」




後一歩、佐助の登場が遅ければ幸村の手中にあった蛙はぼろ紙同然になっていただろう。
恐るべし、幸村のお館様パワー。
天井から登場した佐助も負けていないけど。




「おお、佐助!」




気付いた幸村も慌てふためき、危機一髪だった蛙は漸く新鮮な空気にさらされた。




「伝達感謝する。今すぐ行きますぞおやかたさぶあぁああ!!!!!!!」




どたどた騒がしく敬愛する武田信玄の元へ走る幸村の姿は微笑ましい。まるで親から離れようとしない雛鳥のよう。




「あー、真田の旦那取っちゃってごめんね。代わりと言っちゃ難だが俺様が傍にいてあげるからさ」

「いえいえお構いなく。真田さんも猿飛さんもご自分の職務をなさって下さい」



お気づきの方もいるだろう。私の思考内での彼らの呼び名と、口に出している呼び名に明らかな違いがあることに。

後者の理由は心から感謝の意を持ってして。
前者の理由は、




「いい加減慣れてきた?この時代に」

「お蔭様で。着物とか特にそう感じます」








私が未来からきた人間であるから。

国語が好きだからと言って文系を選択した私に待っていたのは日本史、世界史、社会の嵐。少々時代が入り混じっていて現実的には有り得ない戦国時代な気もするが、とにかく、嫌でも頭に詰め込んだ人名を具現化させた姿が今、目の前にあるのだ。試験前は散々名前呼びをして、友達と必死に暗記をしたものである。
猿飛佐助は例外だが、武田信玄や真田幸村は流石に文系人間としては頭に常備しなくてはいけない単語なわけで。
言えない…幸村とか信玄なんて絶対に言えない。




「いやぁ、でも折り紙が後生まで受け継がれていくなんて思っても見なかったよ」

「そうなんですか。兎とか鶴も折れますよ。あと手裏剣」

「へえー旦那も熱中するわけだ」


そう言って、佐助が懐から取り出したのは先程幸村が見せてくれたのと違う色の折り紙で作られた蛙。



「多分、旦那がそっちに行く前に持ってきたんだろうね」

「元気で天真爛漫なお方ですね真田さんは」

「その分俺様の気苦労が絶えないから勘弁してほしいよ」




あはー、なんてお決まりの笑顔を見せるようになったのは最近の事で。ここまで至るまで実に半年近くかかった。

彼とて忍の長たる者だから、私がこの時代にやって来た頃は四六時中監視されたものだ。いや、幸村の制止がなければ私は佐助とファーストコンタクトすると共に一生を終えていたかもしれない。



「平和ですねー」

「話を聞く限り、そっちの時代のほうが平和に感じるけど」

「あ、そういう意味ではなくてですね。何と言うか平和の種類…でしょうか。私はのんびり気のおけない方とお茶やお喋りするのが好きなんです。私の時代は平和が当たり前過ぎて…贅沢ですよね」




戦国武将にとっての平和は天下を統一し、世の中が安泰となったその時。そこまでの道のりには理不尽な状況や不条理な事柄だって沢山ある。生きている時代が違うだけで、私となんら変わりない人間が今までとりあっていた手を武器に携えて人を殺していくのだから。




「やだなぁ、名前ちゃん。俺様達だって四六時中戦いまくってる訳じゃあないんだよ。」




ほら、湯呑み割れちゃう。


指摘された手元を見ると確かに、力みすぎて指先が少しだけ白くなっていた。慌てて離した片手を佐助にすかさず掴まれる。




「さ、猿飛さん?」

「俺様達だって戦渦にずっといられるほど丈夫に出来てないって。名前ちゃんと同じ人間だよ。この時代の人でも戦いに身を投じる事を拒みたい奴ぐらいいるさ。それでも、しなくちゃいけないんだけどね」

「真田さんも…いつかその事について考える日も来るのでしょうか?あんなに真っ直ぐなのに」

「旦那は相当悩むと思うよ」

「傍にいてあげて下さいね、お母さん」

「いつの間に保護者扱い!?俺様だってさー…」





こてん、と左肩に佐助の頭が乗っけられる。






「名前ちゃんと一緒だよ。こういう時が一番落ち着くし、和やかに感じる」

「確かに一緒ですねー」




こちらも首を傾げて佐助の頭にそれを乗せた。橙の髪の毛は思ったよりチクチクと私の頬を刺す。




「……普通俺様が上じゃない?」

「先にやったのは猿飛さんでしょう?」

「佐助」

「へ?」

「佐助でいいよ。ずっと落ち着かなかったし」




本人の許可、いただきました。

ようやく脳内と現実での呼び方に板挟みにならなくていいみたい。
ちょっと嬉しくて頬を動かせば固い佐助の髪がまた攻撃をした。




「じゃあ佐助。お茶お代わり!」

「急に軽くなったのは気のせいかな」

「気のせいです」

「誰かさんの頭が邪魔で動けませんよー」

「佐助ならきっと出来ます」






こんな攻防戦の中、己が好いている相手に名前を呼ばれて一人満足をしているの知る者は本人のみである。









ゆっくりと確実に学ぶものが勝利する









「名前殿、さす、け」

「「………………」」

「………っ破廉恥でござるうぅうう!!」

「わ、真田さんが倒れた!お水を持って来ないと」

「(旦那空気呼んでよ…)」












後書き:平和な武田さん家が大好きです。



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