私は岸谷新羅が好きです。
この思いは中学生の頃から変わらず続いています。
一昨日、何年目になるかわからない片想い記念日を迎えました。
何故か臨也くんはこの事を知っているけど、別に気にしてません。悪戯に私をからかうことはあっても、新羅に教えるなんて最低な事はしないから。
高校生の頃はお昼ご飯を一緒に食べたり、お話したり、静雄くんと臨也くんの怪我を治療したり、お家にも遊びに行きました。
今でもそういう関係が続いているから、楽しいし幸せです。
でも、片想いで終わったと感じたのはお家に遊びに行った時だったの。神様も意地悪だよね。
夕暮れになったし、私が帰ろうと席を立った時に調度玄関口からドアの音が聞こえて、その瞬間新羅はとても嬉しそうな笑顔でおかえりセルティ、て言った。
初めて、見た表情だった。
初めて、胸が苦しくなった。
恋が叶う訳がないことはわかっていた筈なのに新羅の顔を見て、心がきゅっと締まってしまった。
この時点で私の思いは全く割り切れていない事がわかってしまったのだ。
新羅が大好きで大好きで。新羅も私のことを愛してくれたらいいのに。
贅沢だと敬遠していた欲が次から次へと湧いてきて。新羅に会う度に私は強欲に貪欲になって嫌な奴になってしまうの。
新羅と話しても、笑い合っても、もういつものような関係じゃない。私は私に嘘をついているから。
「ぇ……ねえ名前、どうしたの?」
「ふひゃあぁあなななんでゴザイマショウカ??」
しまった、過去にトリップし過ぎた。せっかく新羅の家に遊びに来たのに失礼すぎだな私。で、でもさっき新羅の顔近かった……じゃなくて!
「その支離滅裂な言葉と幽体離脱しそうな瞳はどうしたの、て聞いてるの」
くすり、とはにかむ新羅に私は不覚にもキュンとした。嗚呼、こんな風に自分の心も素直になれないかな……。
「別に、ちょっと考え事」
「人の家で考え事なんて傍若無人過ぎないかい?」
「私は傍若無人で我田引水だから…」
「おや、そんなに自分を卑下するかんて珍しいね。何かあった?」
いつもの偏屈な四字熟語混じりの言葉を抜きにして聞いてくるあたり本気で心配しているんだろうけど私には心配される資格なんてない。笑ってごまかそう、そうしよう。
「何にもないよ。それより用があったんでしょ。それこそ何?」
「うん…話は簡単なんだけど」
上手く話題をすり替えはしたものの、本題に入った途端に歯切れの悪い喋り方になった新羅に私は疑問符を浮かべる。
「セルティの事は知ってるだろう」
「勿論…前に会った女の人だよね」
「良かった、覚えていたなら話は早い。お願いだ。彼女と友達になってくれないか」
「ど、うして?」
頭の中に小さな衝撃が走る。事態も私もせわしなく動いているように感じた。必死に絞り出した言葉はぎりぎり普段と変わらない平常な声だった。
「彼女ね…小さい頃から僕と一緒にいるんだけど、それが逆に同性と友好を築くタイミングを無くしちゃったみたいで。名前なら僕と息が合うからセルティとも上手くいくんじゃないかなって」
「水臭いなぁ…セルティさんと友達になるなんて朝飯前よ。全く家に呼ぶからどうしたのかと思った」
「大問題だよ、僕は愛しいセルティが僕だけのものでも全然構わないけど、セルティが寂しい思いをするなら話は別さ」
「……………………へぇ」
張り裂けた心の音は、思ったより気の抜けている声になりました。
♂♀
そこからどうやって新羅と話し、次に会う約束をしたかはよく覚えていません。後からついて来る結果が全て残酷なものだったのは覚えているし、わかっているつもり。
ひとつ、新羅とセルティは私よりずっと前から親しかった。
ふたつ、新羅はセルティさんを愛している。
みっつ、セルティさんと私が仲良くなることを新羅は望んでいる。
別にセルティさんを恨むつもりはない。恨むなら新羅を愛した私を恨むだけ。
でも、何かが違う
私は新羅の依頼を引き受けた時点でさっきの私と違うものになった気がした。果たして、偶然の産物か今までの経験が積み重なって出来たものか定かでないけど。
「そっか…そうなんだ」
私はセルティさんを愛する新羅が大好きなんだ。好きになった時も彼はセルティさんを愛していたのだから。
なら愛そう、新羅もセルティさんも。
誰も傷つかないように。
誰もかも愛しましょう。
絶望は臆病者に勇気を与える
傷付きたくないのは自分自身。