「秀吉様のいない戦はこれで何度目だろう…」
「5回目ですね」
「……………」
「あ、大谷様。饅頭を持っていらっしゃいませんか?」
「われは茶屋ではない」
しょうがないので、懐から団子を取り出して口に含む。お茶も欲しくなってきたな。
ちなみに、石田様が穴が開くくらい私を見つめているけど決して甘いそれではない。明らかに変な生き物を見る目だ。
「貴様はどこからみたらしを出した………」
「石田様も召し上がります?」
「刑部、何故こんな奴が軍に所属している」
「戦況…よろしくないですね」
「貴様は私の話を阻むのがそんなに好きか」
「だって、色んな方々に見限られているじゃありませんか。よっぽど徳川様のことがふぉっ!!」
「おっと失礼……手が滑ったわ」
今のは事故じゃないですよ。どうして大谷様の背後に浮かんでいる数珠がわざわざ私の側頭部に当たるんですか。口元に包帯巻かれているからって笑わないでください。バレバレですよ。
「家康ゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「ほら、またよくわからない叫びが始まりましたよ。大谷様のせいです」
「主のせいよ。自分で何とかせい。われは陣形の見直しをしてくる」
「………逃げたな」
ったく…面倒なことは大谷様が全て押し付けてくる。まぁ、今どうこう言っても何にも変わらないのでしょうがなく石田様の元へと向かう。
「はいはい石田様。もうすぐ戦ですから、先陣へ参りましょうよ」
「…名前」
「はい?」
初めて自分の名前をまともに呼ばれて声が裏返りそうになったけど我慢。でも肩をガシリと掴まれて思わず音なき悲鳴が漏れた。
「お前は裏切るな。絶対に裏切るな……」
「わかっていますよ」
"裏切るな"二度重ねて呟かれた言葉に石田様がどれだけ執着しているかはよくわかっている。
徳川様に裏切られ、瀬戸内の巫も雑賀衆も第五天魔王も皆、徳川様の元へ集った。
石田様は恐れているのだ。
裏切られることを。
一人になってしまうことを。
「大丈夫です石田様。私は頭領に逆らってまで西軍に赴いたのですよ。裏切りません。傍にいて貴方様の御力になれれば」
そんな石田様を頭領の背中から見て、私は東軍へ雇われた雑賀衆から抜けてまで石田様の味方になりたいと思った。
「私は裏切りません。絶対に裏切りません」
今度はこの言葉が貴方様に突き刺さりますよう。
憐れみは恋の始まり
「…………」
「………」
「………」
「……痛い痛い石田様、肩痛いです壊れます潰れます使い物にならなくなります」
「…細いな」
「っっっ!!!!!!????」