「幸村くん、お願いがあるんだけど……」


「任されよ。某、出来る限りの手伝いをするでござる」


「本当?じゃあ抱きしめていい?」



「は、破廉恥なあああっっ!!!!」


「うるせぇぞ真田幸村」




時は放課後。
教室に財布を忘れた俺は校門前で嫌々引き返して戻ってきただけだったんだが……。夕暮れの教室に場違いな眩しい笑顔で突っ立っている名前と真っ赤な真田幸村が椅子から転げ落ちているという、目も当てられない光景が広がっていた。



「し、しかし政宗殿…女子を…そその抱きしめるというのは、如何なものだろうか」


「政宗くん、別にいいよね」


「頼むから訳を話せ名前。そして落ち着け真田」



さっさと帰りたい気持ちもあったが、よく理解できない空気をどうにかしたい欲求の方が勝ってしまった俺はまず名前に事の次第を聞いてみることにした。
そんな心の葛藤を知らない名前は嬉しそうに切り出す。




「2人とも私のお父さん知ってるでしょ?」


「島津殿でござるな」


島津先生こと島津義弘は言わずもがな名前の義父であり、またこの学園の鬼教師でもある。方言の入り混じった力強い説教と拳に太刀打ち出来るものは学園内にまずいない。恐らく大事な一人娘名前を除いて……。
過去に巨大なたんこぶを頂いた俺は少し苦い顔を、過去に部活の成績を誉められた真田は愉悦を浮かべた。

勿論そんな思い出に心馳せる俺達に気づかない名前はtempoよく話し続ける。




「お父さんて明らか一般男性の体つきしてないでしょ。超マッチョ。だから小さい頃から抱きしめられてもなんかゴツゴツしてるし私の手なんて背中に絶対回らないの。何て言えばいいのかな……若い細身の男の抱き心地を知りたいの私は。ということで幸村くん抱かせてください」


「はははは破廉恥で(以下略)」


「それは色々な語弊を含む言い方だな。頼む相手を間違えたんじゃねえのか」



難なら俺でも構わないぜ。

その言葉にぱあっと顔を輝かせた名前に思わずこちらも口角が上がる………所で背後にいる真田のあまりにぎこちない反応をみた。
待て待て、俺はアンタの為に嫌な仕事(男としては嬉しいが)を引き受けているんだ。普通はホッとするのが普通だろ。むしろ報酬として明日ダッツ奢れ。





「本当?政宗くんて言葉だけじゃなくて心も欧米だね」

「その褒め言葉はボケとして受け止めておくぜ」



ぎゅー。
謎のやり取りの後にそんな可愛らしい効果音が当て嵌まる強さで名前を腕の中に迎え入れる。続いて名前も背中に手を回しおお、となにやら感嘆の声が胸元でこもった。




「わー細っ、でも流石政宗くんだ。筋肉感じるね。こんなお父さん欲しいな」




その言葉に対して真田幸村はビクッと全身を身震いさせた。
あ、これは別の意味で面白ぇ。
予想が確信へと変わった俺は迷わず言葉を発する。





「彼氏の間違いじゃないのか」


「そーだね、確かに」


「名前殿!!」

「うわわ」



むぎゅー。

あーやっぱり思った通りだったぜ。俺の腕から半ば無理矢理剥ぎ取られた名前は後ろから真田幸村に抱き締められてやがる。名前はわからないだろうがソイツの顔はお気に入りの紅色よりも真っ赤だ。



「某も…構わないでござる」

「待って待って私、抱き着かれたいわけじゃないからえっと……幸村くんは離れて!政宗くんごめんね!」

「No problem」





一度解放された名前はスカートの乱れを直し、ゆっくりと深呼吸をして俺に背を向ける。





「じゃあ幸村くん行ってみようか」




ぎゅー。



「い、如何でござろうか……」

「幸村くん暖かいね。放熱体質なのかなあ?冬に重宝されそう」

「そ、そうでごっ…ござろうな」



頼むから誰かコイツに深呼吸の手ほどきをしてやってくれ。今に酸欠状態になるぞ。




「Hey,boy and girl.俺はairにでもなれってか?」

「勿論でござ」

「あーごめんね政宗くん。今離れるから」

「…」






そんなこんなで終わったhug大会。巻き込まれた俺は美味しかったり色々な事が浮き彫りになったからある意味満足なのだが、どうやら主催者も満更でもないらしい。



「二人ともありがとね。いい経験が出来ました」




唯一不完全燃焼の(いつもは熱血の癖に)コイツにしょうがないから俺はChanceを与えることにした。




「おい名前、どっちが良かったんだ抱き心地としてはー……」




名前は腕を組んで俺達を交互に眺め、最後にポンと掌にグーを乗っけてにっこり笑った。




「政宗くんも良かったけど、私は幸村くんの方が好きかな」


「ぶはっ」


「おおおおお館さぶぁわわわわ」


「あれ、幸村くんどっか行っちゃった…どうしたんだろう?」


「Pure同士も困りもんだな………いや、名前は天然か」


「政宗くん何か言った?」


「なんでもねーよ」





幸運が微笑んだら抱きしめよ





「幸村くんね柴犬みたいでとっても気持ち良かったんだ。よし今度はちかくんとなりくんと佐助くんと三成くんと家康くんの所にいってみよ。あ、片倉先生も試すから政宗くんよろしく言っといて」

「Good luck…真田幸村…」






後書き:ばさらはどうも友情出演が多い。そしてお相手が空気。



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