※地味に下品です









べし。
妙な音が自分の後頭部から響いてきた。正体を知っている俺は原因である書類を後ろからひったくる。

「もう少しマシな渡し方はないのかよ」

「あら失礼」


椅子をくるりと回して、部下である名前に注意すればつんけんした返事がかえってくる。しかし仕事と割り切っている為か視線に嫌悪の感情は混じってはいない。



「熱心だなぁ」

「…報告をしていいかしら阿近?」

「どーぞどーぞ」


渡された資料に目を通しつつ、彼女の声に耳を傾けた。



「回収した義骸の霊子構成は阿近の予想通り12番隊の記帳に残ってはいなかった。書庫の端から調べたんだから間違いないわ」

「はいはいご苦労様。で、どうだ?未知の義骸の感想は?」


「そうね、まさか私が抜擢されるなんて思わなかった。てっきり鵯州辺りかと…」

「冗談は止めた方がいいと思うが」


傍の煙草を口にくわえるより先に名前がそれをふんだくり、手の中で灰に変えた。
彼女の異常とも見て取れる行為に今更追求するつもりもない。

「私直々に言わせたいのかもしれないけれど、残念ながら叶えられない話ね」

「ほう…そりゃあホント残念だ。なら俺から聞こう。あの義骸、朽木家の令嬢さんだろ」

「ルキアの精密検査に私を組み込んだのは何故?」

「友人を弄るなんて滅多にない経験をさせてやったんだ、粋な上司を有り難く思え。」

「お礼ならあんな貴重な義骸を触らせてくれた事柄のみに関して述べるから」


ここまで言っても彼女の飄々とした態度は変わらず、喋る俺の方が余裕を失いそうになる。寧ろ俺が追い詰められそうだ。
だが次の一言で無意識に笑みが零れる。


「霊子構成の記録がないってことは、やはり現世に追放された奴ぐらいしか考えられない、か」

「誰の話をしてるんだか」


何でもないようで、少しばかり動揺の色を見せた名前を楽しみつつ、俺は椅子から立ち上がってじわりじわり壁へと追い詰める。



「おいおい、初代局長へ片思いしてた奴の台詞とは思えないな」

「やめてよ」

「やめねぇよ」


無機質な壁に背後を取られた名前の両脇に手を付いて逃げ場を無くす。彼女の表情は崩れかかっていて思わず優越感に浸ってしまう。

今、彼女の全てが自分の手の平にあることに。


「俺は名前のそういう顔が見たかったんだ」

だから、油断していた。











「ばーか」

いきなり微笑んだ彼女に驚いて相当な阿呆面をさらけ出していたんだと思う。


「今更な事引っ張り出すなって」

「はっ……未練たらたらな奴が言う台詞かよ、浦原隊長の事も」

「わかって、る」

「わかっていないのは名前だ」

再び形勢逆転。
自分の腕が届く範囲にいる彼女は好きだ。涙目で睨まれれば尚更で……。


「…そそられるじゃねえか」

「っ、」

「一回俺のモノになって見ろって」



緩やかに腰のラインをなぞれば、ひくりと強張る表情と身体。熱っぽい空気が纏わり始める。



「……さぁ、い」

「あ?」

「うるさあいっっ!!」

「っ―――――!」


怒号と共に今度はこちらの呼吸が詰まる番になった。蹴られた所は所謂男全般の急所であって、脳天にまで痛みがほとばしり悶絶に顔を歪める。


「いい眺めね、本当に」



屈み込む格好で名前を睨むとそいつは、最初の俺のように涼しい顔で言葉を発してみせた。


「私にここまでの仕打ちをしといてただで済む馬鹿が何処にいるってんのよ。まず段取りから違う」

「好きな奴を取り込むのに手段も糞もあるかよ」

からかうつもりで呟いた筈が、予想外とでも言うように名前の目が見開く。











「奪ってみなさいよ」

鼻で笑う彼女の表情は部屋を出ていった後も脳裏に残って離れようとしない。



そして、その思いは愛する感情よりも脳内を侵す。

















「あぁ、手段は選ばないさ」







規則は破られる為にある




「あなたに名前を呼ばれた時、少しだけどきりとしたのよ」













後書き:テーマはドS対S。
閖よ、ネタ提供さんくす。



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