思い出すのは生まれ変わった瞬間よりも、あなた達の頼りない手でした。
「――――っ!」
嗚呼、私を呼ぶ声が木霊する。
最初はたどたどしくて、小さくて、でも私はそれに笑顔で返事をしていた。
だから、言い返さなきゃ…。
「リ……リネ…ットさ…、スタークさ、ま……ぐっ!!」
我ながら情けのない声を漏らしてしまった。
息を吸う肺の片方は既に鋼の刃に殆どを支配され、喋ろうとすれば傷口を深く抉られて言葉と共に血が零れる。
首だけ僅かにずらせば、顔を歪めている一体となった二人。
スターク・コヨーテ、リリネット・ジンジャーバックに出会ったのはそう言うほど昔ではない。
私の能力を買った藍染様が十刃を相手に実験をしたのが始まり。
実験台は勿論私だ。
果たしてどこまで私の『絶対防御』は持つのか。
防御の対象は物理的か特殊的か。
自発的か偶発的か。
心情の変化に関連されているか。
私の調査と言うよりは、十刃の実力を知りたかっただけなのだろう。
出会った当初は身構えていたこちらが嘲笑してしまう程に、あなた達は怯えきっていました。
大の大人と子供が、ですよ。
自分の名前と能力を伝えた所で、ようやく彼女、リリネット様はゆっくりと手を伸ばしました。私はか細い腕を先に優しく掴み、手首、手の平の順に握りました。
次はスターク様。リリネット様に続くように、だが躊躇うようにして大きな手が二つの上に重なった。
「暖かいな……」
藍染様から、彼らの環境を事前に聞いているので、今の言葉の真意は理解しているつもりです。
「私は消えませんよ。手を繋ぎ、お傍にいることぐらいしか出来ませんが」
「いーよ、全然構わない」
「俺達は絶対の力よりもそれが欲しかったんだ」
二人の儚げな表情に私は心打たれ、もう一つの手を重ねながら従属官になることを志願しました。
私も淋しかったんです。
『絶対防御』は全ての触れ合いを無に帰す。
『絶対的実力』の彼らと並べば、お互いの強さは殺され、残された温もりのみを感じられる。
私達は死よりも孤独に恐怖していた。
恐怖していたからこそ彼らの傍はとても暖かくて、破面らしくない感情だけれど大好きだったのです。
絶対な矛と盾が同時に存在したっていいじゃない、とも思っておりました。
スターク様、リリネット様。
絶対的なお二方、十刃No.1の真摯な姿に見惚れてここまで来たというのにごめんなさい。
あなたがたの力が絶対でないように、私の防御も完璧ではなかったようです。
身を呈してスターク様達に向かう死神の攻撃を庇えば、滴る赤色。
今度は私から手を伸ばしてもいい…ですよ、ね。
手は体を貫く死神の刀を伝い、鍔まで到達。
抜こうとしたわけではないのに、死神は険しい表情で刀を使って再び臓器を掻き回す。
痛みで強張る手に死神の同じそれが触れかけて、
「もう君はおやすみ――」
「「そいつにっ、触れんじゃねぇ!!!」」
耳障りな死神の声と、誰かの掌が重なった。
ひとりは、いやだ。
逢えないことが愛を高める