※Not夢、幽×ポケモンです
「……ただいま」
「にゃあ」
「ただいま!ただいま!」
いつもだったら出迎えてくれる住人は一匹だけだ。でも最近は一匹と一羽に変化している。
数日前、家の前に捨てられていた奇妙な鳥を俺は介抱して翌日ベランダに放しておいた……はずなのに、その鳥はベランダから飛び立ちもせずにバイバイ、バイバイ、と俺が別れる際に告げた言葉をひたすら連呼し続けていた。
その時初めて奇妙な鳥はオウムの類いであること、帰る場所がないことが判明した。
まぁ単に懐かれているだけなのかもしれないけど。
「独尊丸、ペラップ、ご飯だよ」
「にゃー」
「ご飯だよ!ご飯だよ!」
猫用と鳥用の餌をおいしそうに食べる一匹と一羽。
補足として"ペラップ"というのは俺が「名前」と口に出すだけで条件反射的に返ってくる言葉なだけではたしてこの鳥の名前がペラップかどうか定かではない。
「ペラップ」
それでも躊躇なく肩にのる様子を見る限り間違いでもなさそうだ。
続いて独尊丸も膝に乗っかってきて少しだけ温かみが宿る。
「……くすぐったい」
「にゃああ」
「くすぐったい!くすぐったい!」
不思議だ。
感情の起伏が激しい兄を持った為、あまり思ったことを必要以上に表に出さない性格だと自他共に認めていたのに。
ペラップがやって来てからというもの、マネージャーや兄から変わったと言われてしまった。
勿論いい意味で言ってくれているのはわかっている。ただそれが何なのか解らない。ペラップが起因しているまでは判明しているが結果が不明瞭なままで、ペラップのとさかと独尊丸の喉を撫でながら考えても進展はない。
「くすぐったい!くすぐったい!」
「もう俺はくすぐったくないよ」
「もう俺はくすぐったくないよ!」
「…ペラップは人真似が好きだね」
「好きだね!好きだね!」
日ごとに増えるペラップのボキャブラリーを見ていると言葉を覚えたての子供を連想させる。対する俺は様々な言葉を発して知識を付けさせようとしている。
幼い頃の兄も俺にこんな感情を持っていたのだろうか。だとしたらペラップは俺にとって弟のようなものになるのかもしれない。
「悪くは……ないかな」
理屈抜きでそう思った。
兄を慕うのと同じく自然とペラップにも似た感情が胸で燻る。
「ペラップ」
「にゃあ!にゃあ!」
いつの間にかペラップは独尊丸の鳴き声を覚えたようだ。
「俺の名前は、幽」
「俺の名前は幽!」
「幽」
「幽!」
「なんだい、ペラップ」
「幽!幽!幽!」
「うん、俺は幽だよ」
どうしよう。心が暖かい。
空っぽで何にも染まらずに生きてきた胸の少し奥がないた気がした。
役者が語るものじゃないけど、言葉って凄い。そして好きだ。
「おやすみ、ペラップ、独尊丸」
俺がこんなに思いを伝えようとしたり、ふとしたことを躊躇い無く言葉に出すようになったのは間違いなく、お喋りな弟もどきのせい。
愛嬌と胡椒を振り撒いて
「じゃあ、行ってきます」
「にゃあん」
「行ってきます!」
「…いってらっしゃいって言うんだよ、ペラップ」
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怪獣と君提出