桜の魔法


お元気ですか。
私は相変わらずの12番隊で、隊員達は今でも昼夜実験に明け暮れています。
貴方がいなくなって100年たちましたね。器具出しとして貴方の実験を見ていた私も3席になり、少しはみなさんの役にたてるようになりました。それでも、休みの時は貴方の姿を探してしまう自分がいます。
現世の桜は綺麗でしょうか。また隣で見ることができるなら、なんて迷惑ですよね。
貴方の幸せをずっと願っています。


黒木 零






「ひさしぶりだなー」
桜を見たのは一年ぶり、というか実際は昨日も見た。でも、現世の桜は100年ぶり。あの頃の思い出が沢山詰まってるから、あまりみないようにしていた。
1人でする花見はどこか色あせているが、それは気持ちの問題だろう。今は桜に見入っていられる程余裕はない。来るか来ないかもわからぬ人を待っているのだ。


100年前の今日、『来年もここに来ましょう』と言ったのも、姿をけす時に『100年後、桜の木の下で』と言ったのも彼。日時を決めてないどころか、そんな前の約束、忘れるなと言う方が難しい。それでも淡い僅かな期待を胸に、現世に降りたった私は馬鹿だと思う。



どれほど待っただろう。
長い時間待ったように感じるが、そうでもないように思える。
平日の真っ昼間にこんな場所にいる人はほとんどが子供連れのお母さんたち。その賑やかな声に目を閉じる。





「あまりにも綺麗すぎて、誰だかわかりませんでしたよ〜」
カラン、という涼しい音と一吹きの風の中で、耳元から声がした。これは幻覚だ。懐かしいこの気配も、心地いい低温ボイスも、ここにあるわけがない。なのになんで……

「うら、はらたいちょ……?」
「もう隊長じゃありませんよ」
「なんで、ここに……」
「自分から離れておいて卑怯すよね、まだ一緒にいたい、なんて」

ずっと、
100年間会いたかった人が目の前にいて、100年間ほしかった言葉をくれた。私が俯くと背中から回された手は少し強く、でも嫌がれば逃げれる程度の力のままで。

「私なんかでいいんですか?」
「零さんじゃなきゃダメなんです」
「可愛くないし、スタイルよくないし、暇があれば実験してる女ですよ?」
「可愛いし今のままの方が抱き心地いいっすよ? 実験は私も一緒です」
「……もう、手放さない?」
「絶対に」


桜の魔法
(100年越しのキスは)(塩気のきいたとても甘い味)

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