076 すがりつく


#一護#
*微裏




「ねえ、もっと頂戴?」

キスして。
頭を撫でて。
ぎゅって抱きしめて。
もっと、もっと。


もっと、私だけをみて。


あなたは満足したみたいだけど私はまだ満足してないの。
満たされないの。
どうしてかな、悲しいの。

今、一護は私を見ている。
限られた人にだけ見せる、苦しそうな表情で。
最初はそれだけで充分だった。



嘘。
充分だと言い聞かせてた。
こんな一護を、織姫やルキアは見たことが無いはずだから。
こんなに欲望に忠実な一護を見ているという優越感に無理矢理浸って自分の気持ちを抑えつけた。

最初から満たされてなんかいなかった。


今彼がどれだけ私を求めていても、それは愛ではない。
私はただ彼の欲を満たすだけの存在。


わかってる。
こんなことを続けていてもいいことなんてひとつもないことぐらい、わかってる。

今だって彼の腕の中でこんなことを考えている。
本当なら彼の優しさを、温かさを、もっと、もっと感じていたいのに。
余韻に浸る暇もなく私の頭は考え続ける。

満たされたい。
満たされたいのに満たされないの。


だからもっと頂戴。
もっと深いとこまであなたが欲しい。
どんなに優しい言葉をかけられたって、
どんなに優しく抱きしめられたって、
足りない。足りないの。


このまま時が止まればいい。
現実なんてみたくない。
ただこの現実の中の幻想を純粋に感じていたい。
あなたの温もりが愛おしい。



帰り際、彼は必ず一言告げる。
残酷すぎるその言葉を、私はもう聞き飽きた。

「なあ、今日のことは…」
「『無かったことに』でしょ? わかってるよ。私もこんなこと他の人に言えないから安心して」
「……ああ」




ねえ一護。
私やっぱり満たされないの。
ひとつだけ…ひとつだけくれれば後はいらない。
ねえ、お願い。
あなたの愛を、私にください。









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