056 我慢


#銀時#



「好きだよ」
「あら、零から言ってくれるなんて珍しいじゃないの」
「え、だ、だって……」
「ああ、もう!零が可愛いから銀さんキスしたくなっちゃったでしょ!」

ゆっくりと、確実に銀ちゃんの顔が近付いてくる。いつもなら邪魔が入るけど今日は平気かも。目の前は銀ちゃんのドアップで、思わず顔が火照ってきた。いつもは怠そうで、だけど今は真剣な彼の瞳に移る自分を目に入れたくなくて目を閉じた。

「零……」
「銀ちゃん……」

後少し。かすかな息使いが伝わってくる。
そしてそのまま彼の唇に……

「ただいま銀ちゃ……って何やってんだ変態が!!今すぐ零から離れろ!!」
「お邪魔します。あら、神楽ちゃんどうしたの?」
「銀ちゃんが零を襲ってたあるよ!」
……触れることはなかった。


今日も邪魔された。
いつもそう。雰囲気的に良いところまでいくと邪魔される。別に怒られるようなことは何一つしていない。普通に……いや、今時の少年たちより純粋であろう交際をしているだけなのに。

「ただいま!って何やってるんですか!?」
「銀さんが零を襲おうとしてたある」
「きっと私と零ちゃんを間違えちゃったのね〜」


新八が帰ってきた。いつの間にかさっちゃんがいいて、部屋の隅には近藤さんが……まあお妙さん目当てだろうけど。銀ちゃんは神楽ちゃんに縄で柱に縛りつけられて、右からお妙さんに日本刀、左からさっちゃんに納豆を突きつけられている。あげくのはてに口にはガムテープ。
新八に助けを求めてみよう。彼がただの眼鏡でないのなら、きっと助けてくれるはず。
「ねえ、新八くん」
「零さん、大丈夫ですか?」
「あ、あの、お願いなんだけど……」
「いくら銀さん相手でも嫌なときは嫌とはっきり言わないと駄目ですよ。銀さんだって男なんですから。そういうのは好きな人のためにとっておかないと」


……新八はやっぱりただの眼鏡でしかなかった。というか何で信じてくれないんだろう。

「零、今こそ銀ちゃんに言いたいことをぶちまける時あるよ」
「言いたいこと……?」
「ええ。お望みならばこの日本刀あげるわ」
日本刀を受け取り立ち尽くす。

銀ちゃんに言いたいこと……?
そりゃたくさんあるけど、今言うのは凄く恥ずかしい。無理。私にはできない。
けど……
そのまま静かに銀ちゃんに近づいてガムテープを剥がしてあげる。ちょっと痛そう。顔に四角くて赤い跡ができてる。


刀を鞘からだす。そして銀さんの正面に居直り刃先を向け、そのまま振り落とす。ついでに納豆を混ぜている箸をふたつに割ってから刀を床に突き立てた。

ハラリと縄が落ちる。みんなが何故だと聞いてくる。何故銀ちゃんを庇うのか、と。何でかなんてこっちが聞きたい。何で、何で……
「何でみんな邪魔するの!?もうやめてよ!!」
「……邪魔なんてしてないね。この自意識過剰から零を守ってるあるよ」
「そうそう。銀さんたら零ちゃんと付き合ってる、だなんて嘘つくのよ」

「だーかーらー、銀さん何回もいってるでしょーが。それは……」
「嘘じゃない!!」
銀ちゃんの言葉を遮る。
「嘘じゃ……ないのに……」


ああもうだめ。我慢してた涙がこぼれそう。でもみんなには泣き顔は見せたくない。
「零!!」
その場にいたくないのも重なって外へ飛び出す。行き先なんて決まってない。いろんな人に声をかけられた気はするがすべて無視した。後で謝らなきゃ、とふと周りを見ると、人気のない小さな公園にきていた。
昔銀ちゃんとよく遊んだ公園。もう無いと思っていたけれど、変わらずに残っているみたい。
昔はもっと大きくみえたのに……

ブランコがキィッと音をたてる。
……みんなきっと、困ってるよね。
帰らなきゃ。

立ち上がろうとしたが、動けない。荒い息が、後ろから伸びる力強い腕が、私をその場から解放してくれない。
「心配したじゃねえか」
「銀ちゃん……」
「ほら、帰んぞ」
泣き顔を見られたくなくてうつむいてしまう。銀ちゃんがせっかく来てくれたのに、子供みたいな自分に嫌になる。それでもっと涙が出てくる。負の無限ループ。


「はあ……」
溜息とともに離れる温もり。
や、やだよ。嫌いにならないで。
「銀ちゃ……!!」



……振り向いた瞬間に、なにが起きたのかわからない。
行くぞ、と行った銀ちゃんのほっぺは夕日に負けないぐらい赤い。
唇に残る温もりとともに、私たちは帰路についた。

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