ごめんね、でも今だけ




サソリが里を抜けた。
任務から帰った私にチヨばあさまはそう告げた。帰ったばかりだからと新しい任務は無い。里から少し離れた森に向かって土砂降りの雨の中傘もささずにかけだした。目的地は、小さいころ彼とよく一緒に遊んだ大きい木。たどり着いた時に私はびしょぬれだったけど気にしない。むしろ、周りには誰もいない上、涙は雨が、声は風が消してくれたのがありがたかった。何も知らなかった悲しさ、力になれなかった悔しさ、後悔の念しか浮かばなかった。犯罪者の彼を慕っているだなんて、もう誰にも言えない。これからは『犯罪者を好きで居続けるわけ無いじゃない。騙されたわ』と素知らぬ顔をして過ごさなきゃいけない。涙は留まることを知らない――





はっと気が付くと布団の上だった。忘れることのないあの日の記憶。眼鏡をかけて時計を見ると朝の6時で、たまたま目に入ったカレンダーの日付はあれから5年が経つことを表していた。今日は任務が無いから1人で岩山でも登ろうかと思ったけれど予定変更。夢をみたのも何かの縁だと、あの場所に行くことにした。
5年ぶりに来たこの場所では最近戦闘があったようで周りの木々は枝だが折られたり倒れたりしている。思いでの木も例外ではなく、傷ついているものの青々とした葉が堂々と生い茂っている。枝だに腰掛け目を閉じると、心地の良い風と一緒に懐かしいチャクラを感じる。
「……サソリ?」
間違えるはずのない彼の気配。少し下を見ると、ふわふわした赤い髪がそこに見えた。
「久しぶりだな。先に行っておくが、今の俺は暁としての俺じゃないから戦うつもりはねえよ?ま、あんたにも無さそうだけどな」
あのときのままの変わらぬ外見、変わらぬ笑顔。彼の全てが変わっていない。異常なほどに。
「ねえサソリ。もしかして、傀儡になったの?」
「ご名答。バレねぇと思ってたけどやっぱバレちまったか。まあそっちの方が都合がいい」
次の瞬間彼は私の隣に座っていた。そして、5年ぶりに彼に包まれる。心音も、ヒトとしての温もりも感じない。それでも私を包んでいるのはサソリであることに変わりはなく、その事実は心に積み重ねた何かを崩すにはあまりに十分すぎた。
「俺は里を抜けた。だからお前と今のままの状態で恋人同士でいることはできない。これが、最後だ。だが……」
「だけど……なに?」
「俺の気持ちは変わってねぇ。だから今度連れ去りに行く。準備しとけよ?」
相変わらず彼は俺様だ。ああ、だけどそんなところに惹かれたんだ。涙は頬を伝い、彼の服に落ちていく。きっと今頃困ったような顔をしている。私が泣くといつもそうだった。そして泣くなと言いたげに、優しく頭を撫でてくれる。今も昔も変わらない。昔はそれで泣きやんだものだ。でも今は昔みたいに素直に泣きやんでなんかやらない。私がため込んだ5年間分の涙を、今出さないでいつ出せるのか。もうすぐ日が暮れる。また、彼に会えない日々が訪れる。

だからごめんね、でも今だけは。

もう少しだけ、このままで……。




- 7 -


[*前] | [次#]

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -