冷たい白、暖かい白


「それでは失礼します」

任務が終わり、火影様への報告もすませた。今日の任務はランクの割に簡単だった。
多少の擦り傷は在るものの、命に関わるような怪我はない。その代わり心が切り刻まれたかのように痛んでいる。それはきっと今日殺めたあの忍のせい。最期の言葉から察すると妻子がいるようで、手に握られた写真を見る限り相手は忍ではない。忍同士でもその死を受け入れることは容易くないのに忍でない彼女はどうなってしまうのか……。
ここ一ヶ月で通い慣れてしまった道をあるく。もし今彼が死んでしまったら、私はどうなるのか……多分、というか絶対後悔する。もっと早く駆けつけられなかったことに。そして彼に一度も想いを告げていないことに。彼も私も死と隣り合わせなことはずっと前から知っていたし、逆に生きていることが奇跡であることも知っていた。知っていたからこそ怖くて動けずにいた、なんて言い訳にしか聞こえないがこれが現実。冷たい扉を開けると眩しいくらいの白に包まれる。

陽はもう出ていないのでカーテンを閉め、彼の隣に座る。もう何度繰り返したかわからない。ただ、早く意識が戻るのを願って声をかけることしか出来ない。

「ネジもリーもテンテンも、後1ヶ
月もあれば復帰できるって。流石ガイの教え子だね」


「そういえば今日からみんなで新年会なんだって。正月は忙しかったから綱手様ったら2日間任務なしでひたすら飲むって決めたみたい。さっきカカシが引っ張られてたの無視してきちゃった」






「ねえ、ガイ……」










「……零」












「あ、カカシ。お疲れ」
「零のほうがお疲れでしょ。それより綱手様が捜してたよ。私の酒が飲めないのかいって」
ああそれでか。先程の光景を思い出す。綱手様との飲み会を抜けてくるのはSランクの任務の何倍も困難なことであるのは今や里内外で暗黙の了解となっている。おそらく私を探してくると言って抜けてきたのだろう。カカシと私が特別仲がいいのだって知っているから誰も変に思わないだろう。よく考えたものだ。


「……で、どうするの?」
「なにが?」
「ガイが目覚めたら、言うんでしょ?」
「わかんない」
「零なら大丈夫だよ、きっと」
伝えたい。でももし失敗したら、そう思うとその一歩が踏み出せない。任務との切り替えには自信があるが、里内で会った時平静を保てる自信はない。どんどん悪い方に考えてしまう。







「零はガイのことどう思ってるんだっけ?」
「そ、そりゃ、……す、好きだよ」
「ならいいじゃないの。それに少なくとも1ヶ月間彼女でもないのに通ってくれた子に対して嫌な気はしない。きっと大丈夫でしょうよ」
「……うん」
カカシがそう言うから、本当に大丈夫な気がしてきた。ガイの気持ちはわからないけど、それでもガイに……。考えながら自然と視線はガイの方に向く。誰よりも熱血な彼の少し濃い顔も今は弱々しく見える。服の上からでもわかる力強いその腕だって、今は指先が微かに動いているだけ。



……あれ、指先が動いてる。

「カ、カカシ、ガイが……」
「零、綱手様を呼んでおいで?」
「……うん」

ガイの意識が戻った。その喜びで足取りはとても軽い。私はこれからどうするか考えながら綱手様の元へとむかった。




冷たい白、暖かい白








「ガイ、良かったじゃないの。眠ってたとは言え全部聞こえてたでしょ。どうするの?」
「ああ、まあ、そうなんだが……」
「まさか零に言わせる気じゃないよね?両想いなんて幸せじゃないの。それこそお前が好きな青春でしょうよ。それにアスマと紅のこともあるからね、お互い上忍だから、なんて言ったら許さないよ。」
「ああ。すまない」
「零が戻ってきてるから俺はもう行くけど……零泣かせるようなら俺が貰う」
「ああ。絶対泣かさない。ありがとな、カカシ」

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