想いの先に





読んでいた手紙を手帳にしまう。彼がこれらをくれたのはもう何年前のことだろうか。手帳の色褪せた表紙には可愛い一輪の花が描かれている。その花言葉はあまり覚えていないけど、確かsincerity(誠実な)、という感じだった筈だ。常にもちあるいているそれを改めて眺めると、悲しい気持ちが襲ってくる。気分転換にお菓子でも作ろうかと腰を上げた瞬間、携帯電話が鳴り響いた。

『零さんって浦原さんと知り合いなのか?』
「え、まあ隊長が変わる前から12番隊に所属してるから……。急にどうしたの?」
『いや、今浦原さん風邪ひいちまっててさ、意識が朦朧としてるみてぇなんだよ』
「……それでどうして私に?」
『なんかさ、ずっと名前呼んでんだよ。零、零って』

反射的に電話を切ってしまった。一護に謝罪のメールを送ったが、"送信しました。"の文字を見るか見ないかのうちに携帯を閉じた。あれだけうるさかった蝉の鳴き声が今は聞こえない。落ち着くために、金魚草の描かれたカップに紅茶をいれ、窓の外を見て深呼吸。あの人はいつもそうだった。普段体調を崩さない分一度崩すとそれは長引く。今すぐ玄関の扉を開けて、あの頃のように駆けつけたい。今は一応現世での任務の途中ではあるが、内容は学校での黒崎一護と周囲の監視。つまり今は自由な時間にある。
「これ、forgetmenotっていうんですけど、零さんにさしあげます」
不意にその言葉を思い出した。ねじれ花の咲き誇る花畑で手渡されたのは一輪の勿忘草。押し花にして、今でも栞として手帳と共に持っている。このことを彼は覚えているのだろうか。この花の意味を、あの日の約束を……
今まで抑えていた感情があふれだす。

会いたい

義骸を脱ぎ捨てて、玄関を力強く開ける。演劇ではないから、そんなハッピーエンドで終わるものではないと頭では解ってる。それでも心は"もしも"を求めている。
小さな宝石店の前を通り過ぎたとき、ちりん、と鈴の音が聞こえた。商店街のお祭り騒ぎの中でもはっきり聞こえたそれはあの人のものによく似ている。それは私の走りに拍車をかけた。任務以外でこんなに速く走ったことはないだろう。


「零さん」
不意に呼ばれて声の方向をみると、そこには一護がいた。買い出しの帰りらしく、これからまた彼の元へ向かうのだという。一歩、また一歩と彼の元に近付く度に心臓の拍動がより強く、より速くなっていく。本当は、何度も彼の元へ向かおうとした。だけど、どういう顔でどんな言葉をかければいいのかわからず、結局会いに行けなかった。溢れ出しそうな感情を押さえつけて、一護の後を追いかける。




買ってきたぞー、という声にいち早く反応したのは夜一さん。簡単な挨拶をすませた後、早く行ってやれ、と背中を押してくれた。久しぶりに見た彼の寝顔。愛しくて思わず手を伸ばすが、触れるのをためらった。彼との間に硝子の壁がある。
今私はその硝子越しに彼をみているのだ。その壁がなくなったとき初めて彼に触れられる、そう思った。
「零……」
伸ばした手をそのままにしていると、その手が温もりに包まれた。私の感じた壁はいとも簡単に崩されたのだ。
「どうしてここに……」
驚く彼に、一護から電話をもらったことや本当は現世に来た瞬間に彼の霊圧からこの場所を見つけたことを話した。その間、彼は相槌をうちながら話し下手な私の話をちゃんと聞いてくれた。昔と変わらない彼の優しさに、抑えていた筈の涙は留まることを知らない。


彼は私が落ち着くまでずっと頭を撫でてくれていた。視界の端に映った薄墨桜の枝を持つ球体関節人形が揺れる。
「あれ、とっておいてくれたの?」
まだ流魂街にいた頃造ったもので、虚から救ってくれたお礼にとあげたものだった。彼曰く、流魂街に住む小さい子が1人で創るには性能が高く、せっかくだからとっておいたらしい。
「私の隊に来て欲しいと思っていたら本当に来てくれたからびっくりしたんスよ?」そう喜助が笑うから、私まで笑ってしまう。

手紙を出しても、"宛先が見付かりません。"と返って来てしまうため、もう会えないと、笑いあえないと、そう思っていた。その彼が今私を抱きしめていて、微笑んでくれる。幸せな時間。

「ねえ、喜助? 今は無理かもしれないけど……いつか、また、ずっと一緒にいられるかな……」
「もちろんっスよ。零が私を許してくれるのなら、私だってずっと零と一緒にいたいに決まってます」
私は喜助の胸に顔を埋める。そのことでより一層響きわたる声に、そっと眼を閉じた。
「ありがとう、零。愛してる」












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下のバトンを使用しました。


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*小説・詩・会話のみ・歌詞…なんでも構いません。
*語尾等の多少の変更はお好きにどうぞ。
例:□終わり
  →いずれ終わるだろう。
*ただし、必ず文章にお題を入れて下さい。
*英語は日本語でも良いですが……出来るなら英語のままで。

*一題につき一つの文章でも、いくつか合わせて一つの文章でも可。
*暇潰しなので、めんどくなったお題は消して下さい。
□手紙
□色褪せた表紙
□sincerity(誠実な)
□送信しました。
□蝉
□金魚草
□窓
□扉
□forgetmenot(勿忘草)
□ねじれ花
□演劇
□宝石
□鈴
□お祭り騒ぎ
□硝子越し
□見つけた
□薄墨桜
□球体関節人形
□宛先が見付かりません。
□いつか、また


*お疲れ様でした。


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